純白のアルペンロード

〜2004年 旅の軌跡 荒島岳編〜


  登山シーズンを待てずに、深夜の国道をひた走り、着いた寝床は恐竜街道、九頭竜湖近辺。凄そうな名前の連発がだるい朝に拍車をかける。それでも登山口の駐車場に着くと今年の初登山にテンションが上がる。停まっている車は10台程。この時期のこの山にこんなに登山者がいるのか。驚いたが、それこそが百名山の名前か。それとも百名山たる景観ゆえか。雪の消えた勝原スキー場、その斜面をまずは上まで登る。斜面の中腹に一人発見。追わねば。9時のスタートは遅めか。遅れを取り戻すべく坂道ダッシュ。5分で力尽きる。やっぱ無理。普通に登る。あっという間に遠くまで見えるようになってきたが、晴れてるのに、ちょっとガスってる?クリアな景色じゃないのが残念。リフトの上に辿り着くと、先を行く人がちょうど出るとこ。ここまで30分。地図より20分のリード。ダッシュが効いたか。

  大野平野とでも言うのか。荒島岳の麓に広がる田園風景と街並みが見渡せる。これから目指すべき山頂は見えず。手前に見える小荒島は真っ白。雪化粧もいいとこだ。これは荒島岳も雪か?不安が残るがとりあえずスキー場に別れを告げ、登山道へ。30秒後、登山道に雪。積もってない場所も融けた水で道がぐちゃぐちゃになっている。まだこれくらいなら何の問題もない。先を行く登山者に30分足らずで追いつく。いっしょに休憩。余計な建造物が撤去され、頂上の景観がよくなったとの情報をゲット。そしてここから私が先行する。

  5分経過。登山道が一変する。土が消え、一面真っ白な雪になってしまった。マジっすか。これは・・・どうしよ、とか迷う間もなく、踏み跡を辿って登ってしまった。初の雪山でこの判断はまずかった。このときは気がつかなかったんだけどね。雪山は登山道を別のものへと変えてしまっていた。足跡もまばらで、メインとなる道以外にも何本か踏み跡ができている。気を抜くと道を外れる。愛用のサングラスをかけ、雪上の道を見極める。この辺で荒島岳山頂が木々の枝の向こうに見えてきた。真っ白だけど大丈夫かなと、不安ながらもまだ引き返す気などなかった。太めの枝をゲットし、ストック、もしくはピッケル代わりに使う。使わないと厳しいような斜面になってきたのだ。駐車場の車の数の通り、今日の登山者は多いようで、まだ新しい足跡がいっぱい残っていた。それでも登りにくい。雪山とはこういうものか。無駄な体力を使ってはいるものの、初体験で得るものも多い。しかし、ふと下を見ると雪の斜面が谷へと続いている。これは滑ったら下まで行っちゃうな・・・。

  稜線上に出て視界が再び開けた。登山道の交差点、シャクナゲ平である。標高もずいぶん上がってきたのは確か。遠く白山まで雪に覆われた山々が連なっているのが見渡せた。ここで本日2組目の登山者に会う。重装備、足にはアイゼン、しかも10本爪。ちょうど「アイゼン無しは無謀か?!」と思い始めてたとこ。しかもここから見える荒島岳のピークへの道は見事な積雪。真っ白な中にぽつりぽつりと見えるちっぽけな登山者。あれを登るのは無理・・・と正直思った。天気には恵まれ、暑いくらい。景色を楽しんで休憩しながら、一人会議。さて、どうするか・・・。

  一人会議は長引いた。そして体力は回復した。雪山に来るなんて山好きで、かつ経験者がほとんどのはず。誰かいればいっしょに行けるかも。これだけ待って後続が来ないとなるとあのおじさんは諦めて引き返したか。先を行く人に追いつけば、もしかしたら行けるかも。そう思って、自分の中でGOサイン。木々の中を抜けるとそこは本物の雪山。スキー場の比ではない急斜面(雪が無ければ多分崖)が広がり、北陸の山々が連なる雄大な景色が見渡せる。ここを歩く姿はまさにアルピニスト。自然に自分に酔ってしまう。

  頂上を目の前にして、厳しさを増す登り。足元は深い雪。滑ったら間違いなく谷底。運が良くても木に激突か。もう無理。引き返そう・・・と振り向けば、すでにかなり登ってきた急斜面。下りるのはもっと無理。ごめんなさい、2度と無茶な雪山登山はしませんから、どうか無事に登頂させて下さい、と祈りながら、とりあえず、行くっきゃない。10mほど前を一人の登山者が行く。その踏み跡を辿りながら、少しのミスも許されない状況下、本気で集中。雪に突き立てる木の枝もすでに愛用の道具と化した。一番の難所は真冬ならオーバーハングしているという切り立った崖。よじ登って見えたピーク。そこへと続く純白のアルペンロード。何を思うゆえにそこを目指すのか、点在する登山者。積もった雪の分だけの高くなった山頂に枝を突き立てる。YAHAA―――――!!歓喜のシャウト。なんだかんだ言いつつも登頂☆

  登り始めから3時間足らず。雪で時間がかかったように感じたが、実はショートカットされている部分も多く、以外に所要時間がかからなかったらしい。12時ちょうど。日の当たる斜面には雪もなく、春もすぐそこといった感じか。それでも山々は雪に覆われ、遠く白山は轟々しくそびえ、雪山の荒々しさを垣間見せていた。なんて思いながら昼ごはんを満喫。先客は20人くらい。風も穏やかで、暖かい。雪で盛り上がった一番高い場所で登頂の記念写真。いつものタンクトップ姿も今日はそんなに寒くない。

  たっぷり展望を楽しんだら、下山の悩み。何が問題かって、あんな斜面を下りられるのかどうかってこと。頂上にいる人の足元を見たら、全員アイゼンを付けていた。再び一人会議。そこへ現れた正体不明の単独登山者。彼もアイゼンを付けていない!でもなぜか余裕な雰囲気が漂う。何か秘策でも?仲間を見つけた気になって、一緒に下る。「雪積もっていると下りがラクなんだよね」ってマジで?こっちは恐怖心とたたかいながら、びびりながら下りてるのに・・・。でも、実は滑ってるようでそんなに滑ってない。足はとられるけど、凍ってないから、埋まるだけ。滑落しにくいんだってさ。「滑ってもその辺までだから大丈夫だよ」だって。雪を見ただけでビビっていたが、冷静に雪質を考えればそのとおりか。登りですれ違っためっちゃアルピニストな感じの二人組み。雪の斜面にロープで下りて、ピッケルとロープで体を確保。雪山訓練か?はっきり言って、ありえない・・・。

  下りはこの人と登りで抜いたおじさんと三人で話しながら。登りで諦めたんじゃなくて近道見つけたんだって。帰りはそこを通過した。雪があるときのみのトラバースらしい。二人ともかなり山を登っているとのことで心強い。もっともどちらの人も体力と若さを羨ましいと言っていたが。話しているとあっという間。雪道の下山は確かに早かった。でもスパッツを履いてない私は、靴の中にずいぶん雪が入って冷たい思いをしたけどね。登りを助けてくれた木の枝にもバイバイ。助かったよ。次回から山に行くときは金で買える安全は買うようにします。いつもながらのありえない展開も、今回は運に助けられた。雪山にアタックするにはもっと経験が必要だね。修行あるのみか。登山口に戻って5時間55分。なかなかの達成感でそれなりに満足。下山を共にした彼は地元山岳会のメンバーだった。「人呼んで荒島の狼」とは言ってないが、彼は去っていった。「若いうちにどんどん登って下さい」だってさ。もう一人のおじさん、「お気をつけて」と一言、ありがとう。

  帰り道、私を抜いた軽トラが警察に捕まり、ざまーみろ。大野市内で名水百選のひとつ、御清水(おしょうず)をゲットし、そのまま日本海へ。越前海岸の呼鳥門を見上げて、越前温泉の露天風呂漁火へ。山登りの疲れを癒す露天風呂では、海に沈む夕日を眺めていた。久々の旅が描いた軌跡は、今年も何かが起こりそうな予感を漂わせる。そして次なる野望を胸に日本海を後にするのであった。

おしまい

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