雲の上から紅葉を

〜2004年 旅の軌跡 白山編〜


★6月26日 〜秘境の世界遺産に浸る〜★

  毎週のように続く週末のいまいちな天気予報。今週も雨模様。でも標高2700mの山の上なら雲海が見れるかも、と思い、向かった先は石川、福井、岐阜の県境にある白山。ところがおそるべきは岐阜の山奥。深夜の国道は大雨のため通行止め?!それが発覚したときにはときすでに遅し。引き返すには遠くまで来すぎた。道がないので、高速へ逃げ込む。そして霧の中に入り込む。だめだこりゃ・・・。SAに逃げ込んで、得意の車中泊。力尽きた。最近このパターン多し。26日の朝、睡眠時間3時間で起床。眠い。これで白山に日帰りで登ろうとしてたんだからありえない。ていうか日帰りがありえない?さらには登山口への林道が昨夜の大雨のため、全面通行止め。高速を下りて衝撃の事実、みたいな。でも、ここまで来たら、もうどこまで行っても同じ。さらに北上して、世界遺産、白川郷へ。山深き郷には合掌作りの家が点在。本当に昔ながらの集落の面影を残してか、メインの道路を中心に村が広がっていた。町全体がテーマパークみたいでいい雰囲気。のんびりと歩いて楽しんだ。水路にはニジマスが泳いでいたが、あれは獲って食べたりはしないのか?かなりでかかったぞ。高台から見下ろす白川郷は世界遺産の一面を見せたが、雪に埋もれた季節の方がもっといいかも。世界遺産ということで期待しすぎたか、それとも過去の文化に対する感性が欠けていたか。想像を超えるほどではなかった。雲に隠れた霊峰、白山に思いを寄せて、帰りも通行止めの林道の前を通過。せめて麓の秘湯には浸かりたかった。頂上への思いは募るばかり。いつかまた来ます・・・。

★10月23日 〜雲の上から紅葉を〜★

  夏が過ぎ、秋の終わり頃にやっと来られたのは、閉山直前の土曜日。翌々日の月曜日には登山口の吊り橋の底板が外されるんだって。雪で壊れないようにね。金夜に出発したのは23時過ぎ。食料調達に寄った最初のコンビニで日付けが変わり、滋賀県内からは高速を使ってあっという間に福井。ここからさらに山奥へ入っていくと、雨がぱらついて嫌な予感。ジャム勝(スキージャム勝山)の看板を通り過ぎ、初の石川県入り。白峰村の真っ暗な荒れた山道を、おそるおそる行き着いた先が運良く別当出合(白山登山口)の駐車場。耳が痛いほどの静寂の中で力尽きたのは3時前。見上げた夜空にいきなり流れ星☆なかなか見られない、ありえないくらいの星空が広がっていた。爆睡するちょっと前、またもや流れ星。今度は願い事を忘れずに。

  朝、次々に駐車場に集まってくる車のエンジン音で目が覚めた。昨夜は数台しか停まっていなかったのに、気がつけばほぼ満車。7時、すでに登山者の多くは出発しているらしい。日帰りで登るには遅くても7時には出発しないとだめかなと思っていたが、意外にみんなこの時間から登り始めている。ザックの荷物から見ても明らかに日帰り。タイムリミット的にはぎりぎりだと思われるが、どうなんだ??谷間にある駐車場は朝日が届かずに肌寒い。目指す頂上は見えないが、反対側にはすでに雲海が見えている。別当出合登山口、ここに架かる吊り橋は今年出来たばかり。昨年土石流で流されたという橋の一部がはるか下に見えている。治水工事現在も行われており、「土石流危険、早く通過のこと」との注意書きまである。登山口はこの橋の設置工事のためにきれいに整備されている。

  スタートが吊り橋っていうのは、いかにもって感じで気が引き締まる。7時35分、スタート、遅い。登りは砂防新道なるルートから。今回は時間とのたたかいになりそうなので、いつになくハイペースでとばす。とはいえ、色付く木々や沢に注ぎ込む水の流れ、標高に合わせて変化する紅葉の斜面などはたっぷりと見ておく。8時20分、太陽が届く高さまで登ってきた。気温も一気にあがり、暑いくらい。前を行くお姉さんは一枚脱いでTシャツになってた。日本語ペラペラのハンガリー人に抜かせてもらい、工事用道路を走る車を木々の向こうに見つつ、どんどん高度を上げていく。治水、治山工事がかなり激しい。この山はそんなに問題があるのか?それとも登山客が多すぎるのか?霊峰白山、日本最西端の高山帯を持つ山。3大名山の一つであり、山岳信仰もかなりのものだったはず。あまり覚えてないけど。

  甚之助避難小屋(標高1970m)手前の展望のいい場所で最初の休憩。9時、本日快晴で、遠くの山々まで見渡せてます。ここに来て、やっと目指す頂上らしき姿を発見。はるか向こうだ。谷を挟んだ向かい側に下山時に歩く予定の稜線が見えている。所々から水が流れ落ちている。沢はここから見ても水量豊富。どうやらこの山は水が多いみたいだ。一歩間違えれば谷底まで滑落しそうな斜面の登山道も水の流れをうまく越えられるように、治山工事が行われていた。ご苦労さまです、と声を掛けながら、一気に高度を稼ぐ。途中で湧き出す「霊峰白山延命水」を一口飲み、白山を体に取り込む。稜線との合流地点、黒ボコ岩(標高2320m)まで避難小屋からわずか40分。振り返れば東側には高原のような台地状の山容が広がっていた。さっきの小屋と合わせて、おもちゃのような景色に見える。何か実物っぽくない感じ。ガイドでは3時間50分のところを2時間半で来ちった。これで一気に余裕が出来た。うれしい誤算だ。

↑ 別当出合登山口の吊り橋

↑ 室堂を見下ろして

  いきなり現われた木道。「白山奥宮境内地」の文字。こんな高地にありえない木の道。盛んな信仰の様子が伺える。広すぎる平原には雲が幻想的に立ち込めている。しばらく歩くと、その雲が晴れ、ついに白山がその姿を間近に見せる。足が速まるが、奥宮境内の立て札を過ぎてからの広々とした高地には珍しい平原を振り返り、その風景を楽しむ。朝早く登ったと思われる登山者をこの辺で次々に捉えた。時間にはもうかなりの余裕ができ、ひと安心。3時間かからずに着いた室堂。改装(新築?)したばかりの室堂センターは立派なロッジというか旅館というか、とにかく大きい。いったい何人収容できるんだ?シーズンにはここに泊まって、頂上でご来光を、ていうのが一般的。残念ながら今シーズンはすでに営業を終了している。白山奥宮もここにあった。みんなこの辺りに荷物を置いて頂上往復か。おやつを食べながら、途中で抜いてきた人々を迎える。すでに登頂した人たちはここらで昼飯。登山中には人が少なかったが、ここまで来ると、かなりの人数がいる。冬を目前に、みんな登り納めか。「この時期に登ってる人は本当に山好きな人だけ」と家族連れのお父さん。でも娘さんたち、「マジ勘弁」って顔してますけど・・・。

↑ 霊峰白山、頂上

↑ 遠く雲海から突き出す北アルプスの山々

  もう後は30分足らず。「天上界と地上の境界」という青石を越えるともうそこは天上界。完全に雲を越え、室堂の建物も小さくなる。何度も振り返りながら、頂上へと近づくにつれ高まる鼓動。なんでこんなにドキドキしてるんだか。それは登った人にしかわからない世界が、そこにはあるからなんだよ。麓に紅葉、その上に雲海、そこに浮かぶ3000m級の山々。感無量。白山一帯のみが晴れて、他は雲に覆われている。運がよかった。こんな景色はなかなか見られない。室堂には大きな雲が差し迫り、遠くには雲が波打つ。強い風が雲に波を作り、真っ白な海に見せている。この景色を見たきゃ、登るっきゃない。登頂する人々の口からもれる感嘆の声。霊峰の荘厳な雰囲気にシャウトは無し。代わりに頂上の木の柱にキス。11時10分、霊峰白山、標高2702m登頂。

  北アルプスまではっきりと見えるとは驚きだ。日本海側はどこまでも雲海。その向こうに広がる海を見てみたいもんだ。1時間ほど景色を楽しみながら昼飯。温かいカップ麺は寒い頂上では最高。スープも全部飲み干す。疲れた体に染み渡る。スープの達人美味し。食後のカフェオレを飲んで下山。ぐるっと回り道をしてもよかったが、あまりの寒さに耐えられず。おとなしく来た道を戻る。頂上でのんびりし過ぎた。いつの間にやら、人が減ったような。室堂から観光新道を通って別当出合を目指す。ほとんどの人は登りと同じ道で下山を目指すらしく、こっちの道には誰もいない。所要時間に明らかに差があるから、日帰りなら普通登りと同じ砂防新道を使うだろうねえ。でも同じ景色じゃ面白くないでしょ。しかもこの観光新道、名前は新道だけど、実は千年以上の歴史を持つ白山禅定道の一部だとか。千年もの間、いろいろな人によって歩かれてきたのかと思うとちょっとリスペクトしたくならない?蛇塚なる怪しげなケルンに石を一つ積み上げ、殿ヶ池避難小屋で休憩中のカップルの邪魔をし、谷越しに登ってきた山と色付く斜面を見渡す。千年の歴史か、ただ人があまり通らないだけか、登山道は荒れているというか険しいというか。結構厳しいです。

  千年の歴史を感じるも何も、険しい山道であることには変わらず。稜線に別れを告げ、別当出合へと一気に下る。今夏の台風で荒れた道。かなりの急斜面で、木や枝を掴んで下る所もある。標高が下がるにつれて、再び紅葉の中へ。静かな山奥でしばし秋の雰囲気を味わう。治山工事をやっている現場に出た。登山道が崩れて、工事用道路をふさいでいる。復旧作業真っ只中。崩れた土砂の上を通過。「ここ通るの君が二人目だよ」と作業者。もうゴールは近い。どこからともなく聞こえるせせらぎと登山道に染み出る水。スタートの吊り橋が見えてきたのは15時半頃。「汚れた靴はここでお洗い下さい」との立て札。言われたとおりにします。浅い流れを横切って、吊り橋を横目にゴール。

  未だに多くの車が残っている駐車場。山の余韻に浸っていると、「名古屋からですか?!」と「いや三河だよ」との声。三重っす。周りは石川か福井ナンバーばかり。総歩程8時間ちょっと。日帰りで行けちゃったけど、普通は厳しいな、多分。足にかなりきてるし。白山展望の湯からは雲に隠れて登った山頂は見えず。山奥の風に吹かれる露天風呂に浸かって思う。霊峰白山、百名山の名に恥じず。頂上はまさに天上界だった。

おしまい

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