卒業しない卒業式の前に

〜2001年 春休み旅行記 弘前編2〜


  「で、今回の旅のテーマは?」。上野に21時5分過ぎに集合した3人が、リュウの車、ホンダとぅでぃ“なつこ”に大量の荷物とスノボーを詰め込み、乗り込んだ後、最初の話題であった。リュウ、越前守と私の3人がそろったら、合言葉は「スペシャルかませ!」。すでに一般道を走って青森は弘前まで行こうというだけでも、十分なテーマではあるが、今回は車はあくまで移動手段。道中の予定も全く決まっていない。ゆえに今回の旅のテーマを決めなくては・・・。そんなことを言っている間に、21時10分、上野を出発。長い長い道のりがスタートした。

  「国道4号をひたすら北へ」とのこと。では4号を目指して・・・目指すほどのこともなく、5分もしないうちに国道4号に出た。あとはこの道をどこまでも走り続ける。どこまで?少なくとも盛岡を抜けるまで。3人がそろうのは久々。前回弘前に行った時以来か。そりゃあテンションも上がるさ。狭い車内とはいえ、なんかいい感じに体が収納されて意外に快適(?)。ガソリンを満タンにして準備完了。弘前までのガス代はいったいいくらくらいになるのだろうか。日付がかわって3月19日になるまでの3時間はあっという間だった。道路の状況はというと、日曜日の夜ということで空いている。利根川にかかった陸橋はなぜか有料。国道4号が新道と旧道にわかれ、新道の方を走っていたらしい。利根川を越えると風景が寂しくなってきた。時間的にみんなが寝静まる頃というのもあるだろうが、雰囲気が田舎チックになったような気がする。地図で見るとこのまま宇都宮を抜ける辺りまでは4号の新道が続いている。1番手ドライバーのリュウはまだ運転を続けている。

  最初の休憩はトイレだけ。ドライバーチェンジかと思われたが、リュウが運転続行。宇都宮を過ぎて人里離れたころ、助手席でのんびりと夜空を見上げていると地平線近くに、一瞬だけ光の筋が見えた。かなり明るい流れ星だったらしい。残念ながら願い事をする間もなく消えてしまった。リュウいわく、「4号沿いにはホテルが多いいんだよ」。確かに多い気がしなくもないが、これだけの距離を走れば、どこでもかなりの数のホテルが目につくのでは?まあせっかくだから、ホテルの名前でもツアーノートにメモってみるか。ガラスの城、さくらんぼ、夏物語、ラクーン、グリーンヒルズ、サンロード、プレリュード、・・・などなど。2度目の休憩。車を出るとひんやりしていた。さすがに夜は寒い。寄ったコンビニはセブンかローソンだったと思う。リュウは一気に郡山まで行きたかったらしいが、長い道のりだし、無理はしない方向で、運転交代。リュウの“なつこ”は結構運転させてもらっているが、日頃運転する車とは感覚があまりに違いすぎ。でも、3人乗っても軽々しくて、なかなか運転し心地はよかった。

  どこの街だか地名を見てもわからないが、何度目かの市街地を通過中。3時を過ぎた頃だったと思うが、まわりはトレーラーやトラック等の業務用大型車両のみ。その中に軽自動車でいるのは、まわりからものすごい圧迫感を受けた。道路は高速自動車道に沿って続いていたが、一般道のはずなのに信号もなくほとんど高速道路と変わらなかった。ホテルの名前チェック企画は、一応続けてみたが、私の運転中に2人とも眠ってしまうとメモりようがなく、企画終了。名前を覚えておこうとはしたが、深夜にひたすら走り続けていると、余計なことはすぐに忘れてしまった。3時間弱走って、わずかとはいえ仮眠をとったリュウと再び運転交代。このときの休憩はさすがにお茶飲んだりお菓子食ったりと、少しのんびりした。私もさすがに疲れたので仮眠をとった。

  仙台を通過した頃は多分寝ており、盛岡市内で朝の通勤時間になって目が覚めた。ガソリンが空になってきたので補給、再び満タンにした。その間リュウは運転、越前守は後部座席で爆睡か?盛岡市内を抜けてからローソンで朝飯。レシートによれば8時40分のこと。ローソンの岩手郡滝沢村店だった。どの辺かはよくわからんが、かなり弘前に近づいてきたのは確か。岩手山や八幡平、雫石の地名を目にして、長々と走ってきた国道4号に別れを告げたところで、運転交代。奥羽山脈へと入っていくのであった。10時をまわり店が開き始める頃に、3人は雪に覆われた山の中。道路に雪がないので助かった。まあリュウの車は寒冷地仕様だし、駆動輪はスタッドレスだから問題はないらしいが、雪の壁に囲まれた雪道の運転は私に問題があると思う。大事をとって、どこかの温泉地を目指して山奥に入る前にまたリュウと運転を交代した。ペーパードライバーの越前守の名前が出てこないのでどうしているかというと、車が安定するとの理由で後部座席に収納され、ドライバーの応援をしているのみであった。だって私もリュウも越前守に運転を任せるなんて、こわくて出来なかったから。

  雪山を登った先がいきなり通行止めになっていたのには驚いた。積雪のためだが、突然行き止まりとは・・・。山の反対側からならその温泉に行けるらしい。田沢湖とか玉川温泉とか鹿角といった地名を見たが、あまりの眠さに記憶が飛んでしまった。地図を見ていたわけではないし、来たこともない場所だったからいまいち通った道がわからなかった。山中の雪道でリュウが見せたドリフトはなかなかのものだった。そして私は眠りについた。

  起きたら弘前大の正門前を通過中。どういう道を通ってきたか知らないが、リュウの家はもうあと3分。見覚えのあるサンクスを過ぎ狭い路地へ。ついにリュウ宅に到着、時間は13時10分。寄り道こそしたが、タイムは16時間ちょうど。18切符での所要時間が16時間22分だったから、22分早く着いた。それにしてもつ〜か〜れ〜た〜。車での16時間はあまり内容を覚えていられなかった。のんびり寄り道しながら来るはずだったが、なんか寒いし眠いしで車から出る気がしないまま、かなり無心に弘前を目指したような気がしないでもない。しかし、メインはこれから。まだやっと弘前のリュウ宅に着いただけである。ガス代は6000円くらいだった。2回満タンにしてまだ燃料は余ってそう。

  部屋に入るとみんなダウン。こんなに早く着くとは思わなかったので、着いた日に動くことなんて考えてなかった。リュウは「オレは疲れた」とベッドに横たわる。運転量が多かったから無理もない。越前守と2人で弘前市内をうろつくことにした。「車使っていい」というので、弘前城見物にでも行くことにした。が、弘前城は車を停められる場所がなかった。城のまわりをぐるぐる、そのうちどこか知らない道へ。このままでは岩木山に登ってしまう勢いだったので、駅前にターゲットを変えた。

  マックでおやつ、それからダイエーにお買い物。駐車場を見つけるのに苦労したが、駐車場所に行くのにも苦労した。6階の駐車スペースまでぐるぐる登り続けた。何のお買い物かって?今夜から2,3日分の食事に使うであろう食材その他いろいろである。余ったものとしては米5s。これは多かったか。他の2人が食べなさすぎ。夕方帰宅。リュウは爆睡していた。せっかくいろいろ買ったのに、この日は疲れていて食事作るのが面倒になり食べに出た。徒歩5分の距離にある「シュガー」なる飲み屋で夕食。弘大生のたまり場にもなるらしいが、春休みで学生はいなかった。

  食事後はついに夜のバトルに突入。修学旅行の初日の夜なみにるんるん気分。でも疲れが全身に行き渡っていて、元気さに欠けた。無理もないが。で、どうしたかというと、オセロに将棋、ダイヤモンド、モノポリーとなぜ今さらというものばかりにはまってしまった。疲れていながらもゲームは延々と続き、寝たのはいったい何時だったか。持っていった寝袋にくるまったのは、すでに明け方のことだったような気がする。日付は20日に変わった。

  何度か起きたりもしたが、みんなダウンしているから放っておいたら、11時まで寝てしまった。でもまだ眠い。リュウは「部屋を片付ける」とのこと。滑るのは越前守と私の2人。スキー場まで送り迎えをしてくれた。岩木山百沢スキー場、そこは一昨年の夏、雨の岩木山へと入って行った入口のある場所だった。雪で覆われた山は、全然雰囲気が違った。14時に滑り始める。「4時間後に迎えに来て」とリュウに伝え、リフトへ。時間ごとのリフト券で、4時間券は1900円。あまりの安さに感動。稼働していないリフトがあるため200円引きになっていた。しかも人が少なくていい。平日の午後から来る人なんて多くないか。それにしても安い。

  この前行ったバラギ高原も空いていたが、これほどではなかった。かなりの確率でゲレンデに一人状態になった。越前守はスキーをレンタルしたので、それぞれ勝手なペースでひたすら滑った。久々のスキーだった越前守は豪快に転んで魅せてくれた。負けず劣らずこちらもスノボーで転んで魅せたが。緩斜面と急斜面の混ざった幅広のコースで、練習には最高だった。明日はリュウが参加するはずだから、今のうちに闇練しておかなければならない。2時間滑って、休憩。そしてまた2時間滑る。強風にあおられたり、女の子に見とれてバランスを崩したりしつつ、時間いっぱい滑りまくった。最後の1本は滑りのなめらかさと誰もいないゲレンデに一人という状態のせいで、自分に酔ってしまった。

  リュウが迎えに来る頃には、ゲレンデにはほとんど人がいなくなっていた。帰りの車内では疲れのあまり眠ってしまい、気がついたらリュウ宅に着いていた。さて夕食の準備。昨日買いあさった大量の食材をたっぷり使っての水炊き。腹が減っていたので猛スピードで作る。ご飯が炊けるのを待って夕食スタート。うまかった〜。そして腹がいっぱいになったら、今度は睡魔が襲ってきた。迷わず寝る。なんか3人そろって体調がいまいち。誰かが原因で全員にうつったと思われるが犯人は誰だ?スキー場での寒さとかもあっただろうが、鼻がぐじゅぐじゅ。3人とも床にへばりついてこの日もゲームにひたすらはまった。そして気がついたら眠っていた。

  21日、前日よりは早めに起きた。そしてすぐに行動。今日はリュウも滑る。かぜで体調不良とはいえ、ここは元祖“すぺしゃる”の使い手。3人そろったら、何かを魅せてくれるはずである。スキー場に行くのが待ち遠しい。今夜のバスで越前守は帰らなければならないので、スキーに行く前にバスの切符を買いに寄った。ついでに明日夜の私の分もと思ったら、「明日夜は空きがありません」だと?!キャンセル待ちという手もあったが、万が一帰れなかったらやばいので、しかたなく今夜のバスで越前守とともに帰ることにした。もっと早めにバスの手配をしておくべきであった。予定変更にともない、テンションも変更。だるいとか言ってる場合ではない。リュウ、越前守と1年半ぶりに3人がそろったのに“すぺしゃる”をかまさないわけにはいかない。チャンスは今日一日。スキー場で何かが起こる?何かを起こす?

  やって来たのは、弘前市内と反対側の岩木山、鰺ヶ沢スキー場。暴風カバー付きのリフトと6人乗りのゴンドラが数台。どれも距離が長く、上に行くまでに時間がかかった。その分滑ってくるのにも時間がかかり、コース幅も広くてよかった。何より空いているのがいい。昨日よりもさらに人がいなくて、ほとんどコースを独占。かなりでかいハーフパイプもあり、そこそこうまいスノーボーダーがパフォーマンスを魅せていた。私はというとアイスバーンの多い斜面に手こずって、かなり痛い思いをしながら滑っていた。そういえばここのスキー場も夕方からのリフト券は1500円と安かった。

  山の上の方からは津軽平野に日本海と眺めは最高。夕暮れ時の景色はまたいい感じ。ゲレンデに一人たたずんで遠い目で夕陽を浴びる姿はきっとかっこよかったに違いない。と、リュウは思っていただろう。関東に比べたらまだこちらは寒い。滑っているときはいいが、それ以外は寒くてまいった。しかも山の上の方は完全なアイスバーン。スキーの二人に対して、スノボーはついていくのが大変だった。頂上から一気に下まで滑ったのは最高に気持ちよかった。が、景色を楽しむ余裕はなく、しかも時間が結構かかったので、体力的にもいっぱいいっぱい。猛スピードで滑り降りたリュウの“すぺしゃる”は残念ながら今回はろくに見れなかった。最後はリュウ、越前守とはぐれてしまい、終了時間ぎりぎりでリフトに。今シーズンのラストを飾る滑りは、誰もいないゲレンデを、自分に酔いながら滑降するというすばらしいものだった。今シーズンデビューし大活躍したマイスノボーに感謝。スキー場の帰りは海へ。私は初の日本海。夕焼けの海を求めてドライブ。車の中から期待通りの景色を見ることができたが、海辺に降り立ったときには、日は完全に沈んでしまっていた。日本海の荒波を前に、暗くなった海岸でそれぞれの思いに浸る・・・。

  リュウ宅に戻ったのは20時過ぎ。今晩帰ることになったから、なんかいそがしくなった気分。22時発のバスまでに夕飯。帰ってきてすぐに炊飯のスイッチを押す。ご飯が炊きあがるまでにチゲ鍋の準備。腹がめちゃへっていた3人はご飯が炊けるとともに鍋に群がる。と、炊けていな〜い!?水を入れないで炊いてしまった・・・。誰だ、犯人は!?空腹に堪えられず、チゲ鍋にうどんを入れてご飯のかわりにした。結局炊けるより先に食べ終わってしまった。

  21時10分。バスまであと50分を残すのみ。「かるく行くぞ」とリュウの提案でドライブに。バスの時間までにどこに行くつもりだ?「一番近くの山へ」だそうで、寂れた道を爆走。21時半までには着かなければ戻らなくてはならない。函館とまではいかないが、5万ドルくらいの夜景は見れるはず・・・だったのに、冬の雪はまだ残っていた。道がいきなり雪の壁にふさがれており、残念ながら山には行けず。行き止まりに車を停めて、ライトを消す。星の瞬く夜空を見上げてこの旅の終わりを思う3人であった。

  22日の朝6時過ぎ。越前守と二人、浜松町に到着。別のバスだったが。次回、弘前に行くのはいつになるのであろうか?ん、また行くのか?リュウはいつまで弘前にいるのだ?怒濤のように過ぎ去った3日間に思いを寄せつつ、明日、大学の卒業式をむかえるリュウと越前守。大学が好きだったり、お勉強が好きだったりと、それぞれの理由でまだ学生生活は続くわけだが、とりあえずの区切りといったところか。卒業しない卒業式の前に、また一つ“すぺしゃる”の軌跡を残したリュウ。本当に地球科学のスペシャリストになってしまいそうな勢いの越前守。ボーナスのようにあと2年の大学生活が残っている私。3人の野望と希望は遠く・・・、“すぺしゃる”はなお遠く・・・。

おしまい

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