3000m峰への憧れ

〜2004年 旅の軌跡 北アルプス編2〜


  乗鞍スカイラインは自転車で走れるらしい。そんな話を聞いたのが先週の大会のとき。ならば、富士スバルライン完走の勢いそのままに、クライムの力を試しに乗鞍へGO!10月2日、土曜の午後にふと思いたっての出発だ。目指す奥飛騨温泉郷は本当に何もない山の中。高速を使って飛騨高山へ。そこから3000m峰の連なる北アルプス山中へと入っていく。時間はすでに21時過ぎ。人どころか他に車さえ走っていない。乗鞍スカイラインの表示を過ぎ、トンネルを抜けると、そこは見覚えのある交差点。安房峠道路の岐阜側の出口だ。2年前の北アルプス縦走のときに初めて来た道を何となく思い出す。平湯、福地、新平湯と温泉街を抜け、栃尾温泉へ。

  山の夜は早く、すでに寝静まった町の中で、ひっそりと明かりの灯る荒神の湯。志200円と書かれた料金箱。利用時間は22時まで。「ご湯っくりどうぞ」だって。まずは様子見。上と下が空いている板一枚の戸を開けるとそこが脱衣所。外から見えるし。木の仕切りを外から回ると露天風呂だし。あまりの開放感にびっくりだ。女の子の方も似たようなもの。男湯よりちょっとついたてが多いくらいか。夜じゃなきゃ入れないね。時間はすでに22時ちょっと前。誰もいないので、遠慮なくドボン。あ〜いい湯だ☆星空が見えないのは残念。ていうか雨。露天で雨に打たれながら、山奥の秘湯をのんびりと満喫。気がつけば利用時間を過ぎていたが、問題なし?あまり良くないか?管理人がいないからね。一人おじさんが入ってきたが、他は誰も来ず。暗闇の中に川のせせらぎが聞こえていた。

  北アルプスの登山口の一つとして賑わう新穂高の湯。下界と山の世界との境界に位置する温泉郷だ。駐車場には週末ということで登山客の車がいっぱいだ。明日の温泉はここのどこかってことにして、今夜は足湯と飲用温泉だけ楽しむ。ペットボトルに入れて湯たんぽみたいにして車に持ち込む。熱すぎ。雨でかなり寒くなってきた夜にはちょうどいいか。北アルプスに登るとしたら、またここから出発することになるのか。懐かしさと3000m峰への憧れを胸に、おやすみ。静けさの中、雨の音と川のせせらぎだけが遠く聞こえていた。

  10月3日、5時起床。山の朝は早い。駐車場にはすでに登山者の姿。私も急がねば。まずは朝風呂。夜明け前の薄暗い時間、昨夜と同じ荒神の湯へ。早朝からやっているというか、ただ入浴が可能なだけか。ところが他にも客がいた。大学生くらいの女の子たちが壁向こうで騒いでいた。お風呂の仕切りはずっと続いているわけではなく、川の手前で途切れている。しかも対岸からは普通に見えてるし。そりゃあ入ろうと思ったらこんな時間になるよなあ。ちなみに男湯は私一人。温泉で眠気すっきりといきたいところだが、あまりの気持ちよさに再び眠気が。極楽だ。

  朴平の駐車場まで戻り、乗鞍行きのバス券売り場のオープンを待つ。7時の営業開始とともに、乗鞍岳の現在の天気と、自転車でスカイラインが通行可能かどうかの探りを入れる。ここは曇りだが、乗鞍は雲の上でいい感じとのこと。自転車の走行はOKだって。これは行くしかない。と、気合いを入れてスタートしたもののスカイラインの入口は遠い。ていうか何、この傾斜は?!レースのテンションが無ければ、クライムは無理らしい。睡眠不足もあってか、距離8km、標高差300mほど(?)を登って燃え尽きる。乗鞍スカイラインの入口にやっと辿り着いただけ。「自転車はヘルメット着用ですよ」と守衛さんが出てきたが、「大丈夫です。これ以上は行けませんから」と一言。休憩しつつ話を聞くと、毎年クライムの大会があるため、スカイラインを走る自転車は結構多いそうだ。練習に来るんだって。でも終点は2700mオーバーだから相当な寒さ。「ジャージじゃ、凍え死ぬよ」だって。ザックの中にちゃんと防寒着も持ってるって。

  登りでたまったフラストレーションを下りで爆発。ダウンヒルはかっ飛ばす。登りにかかった四分の一くらいの時間で朴平の駐車場へ戻る。車と変わらないスピードで走ったからね。朴平への分岐でコースアウトしそうになった以外は無難に走行。びびって下ったから、そんなに攻めてないし。時間はやっと9時前。今度はバスで乗鞍スカイライン終点、畳平へと向かう。さっき自転車走った道をバスもきつそうに登って行く。疲れでうとうとしていると、いきなり北アルプスの絶景が広がる。スカイラインに入ると、それまでの景色とは様相が変わる。ここを自転車で走ったら気持ち良さそうだ。3000m峰が連なる北アルプスだからこその景観か。人気があるわけだ。標高2700mオーバーをこんなにラクに味わえるなんて、ずるい。

  乗鞍スカイラインの終点畳平。富士山の5合目を思わせる山岳観光地。登山客と観光客が入り混じっている。駐車場は観光バスでいっぱいだ。所々に自転車も止まっている。登ってきた人がいるらしい。この高さ、ちょうど雲と雲の間になっており、曇り空ながらも雲海が見られた。20分程で辿り着く魔王岳2764mと富士見岳2818mをピストンした頃に、急に降り出した雨。いつ降ってもおかしくない空模様だったけどね。乗鞍岳の主峰を目指すが、肩の小屋でストップ。どうせ車で来られるんだから、天気のいいときにまた来よう。ただ登るだけじゃもったいないでしょ。下りのバス待ち時間に乗鞍のホットミルクをいただく。冷えた体にありがたい。早く温泉に入ろっと。

  下まで戻ってくると気温だけはマシになった。が、雨は止まず。再び新穂高温泉に向かい、露天の新穂高の湯へ。槍・穂高縦走の下山後にみんなで入った懐かしい温泉だ。あのときはみんな水着だったが、先客は裸。迷ったが女性もいるので、私は水着。正解だった。橋の上から女子大生くらいの集団が見下ろして騒いでいた。危うくただ見されるところだった。裸のおじさんたちは気まずそうに小さくなっていた。豪快な川の流れをすぐ横に見つつ、開放感溢れ過ぎの温泉を楽しむ。ふぃ〜♪

乗鞍スカイラインの入口

畳平と奥の方に乗鞍岳山頂

穂高連峰、常念岳などなど

  日曜日の14時過ぎ。雨の中、次々に下山してくる人々。その大変さを物語る燃え尽きた感じのぼろぼろの姿。うちらもあのときは大変だったんだよなあ、と思い出に浸る。登山センター2階の村営食堂で、遅い昼飯。山菜定食、何の山菜だかよくわからないが、そこそこ美味しい。満腹になったところで最後はアルペン浴場。土日で4回目、3個目の温泉は、多くの岳人に利用されてきた無料の温泉。普通の内湯だが、下山後に浸かるとホッとするに違いない。普通じゃないのは入口の所。男湯と女湯、ドアは分かれているが、入ると壁がなくてすぐに再会。脱衣所は陰になってるけど、裸でうろついたら丸見えだ♪

  奥飛騨温泉郷にさらば。温泉にふやけた体は何となく満たされた気がする。北アルプスの3000m峰に思いを馳せながら、自転車素人の自分を再確認。こんな山奥に来ちゃったのは、どうしても抑えられない思いがあったからなんだろうなあ。いつかあの頂へ。そう思うかぎり、再び僕らは出会うだろう、この長い旅路のどこかで。

おしまい

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