乗鞍ヒルクライム

〜2006年 旅の軌跡 北アルプス編4〜


  すぐ近くでやっていた花火大会が終わる頃、ふと思った。そうだ、山に登ろう。わけもなくそんな衝動に駆られて、でも動けてしまう身軽さ。相棒の自転車を積んで、奥飛騨へ。深夜のドライブは久しぶりか?まあよくあることだ。岐阜と長野の県境、乗鞍スカイラインを自転車で走りたいなって。ついでに乗鞍の最高峰も踏みたいなって。3000m峰への憧れと山の魅力に吸い寄せられるように高山から長野へと抜ける北アルプス山中へ走っていた。

  7月30日、深夜3時過ぎ、乗鞍スカイライン入口の平湯峠に到着。今から寝るのに、スカイラインは3時にオープンだってさ。早すぎだから。でもまだゲートは閉鎖されてるっぽい。何はともあれ、まずは寝ます。おやすみぃ。

  7時、暑くなってきたのと、バスが通る音で目が覚める。7時半までだらだら粘る。朝食と準備体操を軽く済ませ、愛車をスタンバイ。ゲートのおじさんに、「上まで2時間だよ、がんばって〜」、ういっす。行ってきます。8時出発。朝から体に悪そうなハードな登りだ。傾斜は、きついぞ、かなり。

  北の空が暗いのが気になるが、向かう先は晴天。すでに雲と同じくらいの標高からスタート。いい景色が期待できそうだ。15分くらい走ったところで歩いてるおじさんを発見。乗鞍スカイラインは歩きも有りか。スピードを落としてお話。「休憩無しで1時間40分くらいだよ〜」、去年自転車で登ったそうだ。今年は腰が痛いから歩くことにしたとか。熊に気をつけて。お先に。

  体が暖まってきてもラクになる気配が無い。傾斜はきついまま。ぐんぐん高度は上がってくけどね。スタートから4kmくらい、展望ポイントに到着。広い駐車場、かつてはマイカーで溢れてたに違いないが、今はマイカー規制。走ってるのは大型バスかタクシーくらい。車1台無い廃墟みたいな雰囲気も雄大な景色の前にはちっぽけなもんだ。ぐるっと回って通過。

  平湯峠(1684m)から全長14.4km、標高差1018m。乗鞍スカイラインはまだ先が長い。8時半を過ぎた頃からバスが増えてきた。低公害バスはともかく、普通の観光バスは排気ガスがうざい。何とかして欲しいもんだ。気をつかってくれるバスもいるが、全くお構いなしのバスもいる。他に自転車で登ってる人は居ないのかしら・・・。

  結構走った感じの1時間。あっさり着くくらいのイメージだったんだけど、まだ半分ちょっと過ぎたくらい。森林限界を突破。遠くに雲海が広がっている。疲れも吹き飛ぶ景色だ。が、現実は疲れてきた。観光バスから手を振られる。応援には応えなきゃね。笑顔で手を振り返す。応援してくる目線と、何だコイツは?!みたいな目線の両方を浴びつつ、ひたすら走る。

  12kmくらい来るともう登りは落ち着いた感じ。タクシーで来ている人は降りて景色を楽しんでいる。北アルプス、笠が岳、槍、穂高の山々がきれいに見えている。手付かずの高山平原が広がる。乗鞍の管理やパトロールの人たちに挨拶をしながら最後の直線を快走。別に誰が見てるわけでもないんだけど、こんな気分。両手を広げて、天を仰ぎながらのゴール。写真を撮りながらの走りで1時間47分。まあ平均的なスピードってところか。気持ちいいぜ。疲れはMAXだけどね。

  乗鞍スカイラインの終点、畳平。観光客と登山者が入り混じる微妙な場所。ハイヒールにスカートのお姉さんが山に似合わず浮いている。と思っていたが、自転車とチャリウェアの方が浮いていた。「ここまで自転車で来たんですか?」とか「すごいね〜」とか、声かけられる。そんなに悪い気分じゃない。「さっき手振ったのよ〜」とかっておばさんたちも声かけてくれた。無事着きましたよ。疲れたけど。でもね、ここからまた頂上まで登るんですよ、歩いて。

  観光客でいっぱいのお花畑。お手軽に来られる山には人が溢れかえっている。ハイキング気分でエコーラインを見下ろす道を歩く。雪渓にはスキーやスノボーを楽しむ人たち。7月に普通に滑れてる。滑ってる場所が普通じゃないけど。バスターミナルから頂上まで1時間半くらい。自転車で疲れた脚にはなかなかきつい。たった300mなのに。

  遠足っぽい高校生たちに挨拶をされまくる。えらい。けど、多すぎ。挨拶疲れしそう。整備された岩場を登るにつれ、さっきまで居た畳平に、エコーラインに、高山の街並みに、と次々に雄大な景色が広がっていく。最高峰、剣ヶ峰(3026m)に神戸の女子大生たちとともに登頂。梅雨明けを告げる晴天、この眺め、最高だ。

  登った後は、同じ道を帰る。標高の高さを実感しながらの帰り道は嫌いじゃない。景色のいいとこでお昼。これだけ人が多い山でも、話す人とは話す。あと50mで頂上だけど、調子が悪いからと登頂をやめたおばさん、好判断だ。こういう姿勢も大切。

  畳平はバスでいっぱいになっていた。自転車もけっこう見かける。が、ほとんどエコーラインの方へと下りて行った。ていうか自転車で来て、さらに登ろうとしてる人はいないっぽい。つまらない下りも自転車なら話は別。ジャージを着こんで、さあ下ろうか。デジカメ片手に景色を楽しみながら。

  MTB2人と一緒に下る。写真を撮るのに停まって離されてはまた追いついての繰り返し。突然、「後輪、蛇行してますよ」と、何〜?!あ〜!なんか歪んでる・・・。間違いなく先日の転倒時のダメージと思われる。ていうかもっと早く気づけって。自分では全く気づかず。まあそんなもんだ。いきなりパンクとか壊れるとか無いよなあ、とビビりながらの下り。2時間弱かかったスカイラインをのんびり40分ほどで下りきる。ゲートのおじさんに「またおいで〜」、気が向いたら。乗鞍スカイライン、ありがとー!

  帰りはほおのき平の温泉に浸かって余韻に浸る。すでにほてっている肌は、見事なジャージ焼け。そんなに強い日差しだったかなあ。自転車で1000m、歩きで300m。これ、登った標高差。こんな登り方をすれば、乗鞍もお手軽とは程遠い山になるね。3000mオーバー、疲労度も景色も文句無し。やっぱこれだね、山登りの楽しさは。ふと思ったらまたこうして山に登るんだ。次がいつになるかはわからないけれど、心のまま僕は行くのさ、誰も知ることのない明日へ。

おしまい

inserted by FC2 system