甲斐駒へ真上へ

〜2006年 旅の軌跡 南アルプス編3〜


  早朝5時半頃、寒くて目が覚める。寝袋にちゃんと入ってなかったら寒かった。外にはなんとなく人の気配。まだ日の出前、というか山の西側で太陽が見えるのが遅いせいで薄暗い。朝一のバスに乗ろうとすでに70人程がバス停に並んでいる。そんなに急いで行く先は、南アルプス林道の北沢峠。南アルプス、仙丈ヶ岳と甲斐駒ヶ岳の登山拠点だ。

  日帰りの軽い荷物は手荷物代を取られず。往復2200円の切符を買い、登山者カードを記入。長谷村営バス、仙流荘前を6時10分くらいに出発した。時刻表では6時5分発。客の多さにバスの追加便が追いつかなかったってところか。後にもう1便控えていた。長谷村、合併して現在は伊那市だ。南アルプス林道、長野県側の入り口、戸台口から始まる南アルプスアルペンルート。全長22.8km、標高差1200mのドライブが3度目の南アルプス登山のスタートだ。

  バスの運転手がこの秘境に咲く花やはるか向こうに見える山々の紹介をする。高山植物に詳しかったらもっと面白いんだろうなあ。甲斐駒、長野県側からは東駒ヶ岳と呼び、全国に数十ある駒ヶ岳の中でも一番の高さとのこと。峠に着くまで寝てようと思ってたのに、テンションが上がって、全然眠くならず。突然のアクシデント、崖の斜面にカモシカ。「あれが動いて落石になるのが怖いんですよね」と居なくなるのを待つバス。1日に車が10台も通らない道路は、すでに山深い雰囲気が漂っている。

  2002年の仙丈ヶ岳登山以来の北沢峠。けっこう覚えてるよ、登山口の山小屋とか下山してきた道とか。今日は峠から10分、山梨県側の北沢長衛小屋のある登山口から登る。7時、北沢峠を出発。長衛小屋の幕営場には色とりどりのテントが張られている。みんなまだ出発前?同じバスに乗っていた数組もこのコースを行く。9月だというのに肌寒い。

  歩き始めからしばらくは沢沿い。丸太の橋にロープ。序盤からあついコースだ。30分足らずで仙水小屋。「わしが掘り当てたんだ」という小屋の主人に「まあ美味いから飲め」とたっぷり水をいただく。冷たくてマジ美味い。ちょうどいいからここで水補給。たっぷりと自慢されたので、たっぷりといただく。

  木漏れ日の登山道を抜けると、向かい側にそびえる仙丈ヶ岳が姿を見せ、仙水峠へたどり着く。峠の東側は真っ白で何も見えない。雲が立ち込めている。甲府盆地は曇っているらしい。その雲が上がるより先に上へ行かねば。ここから駒津峰まで約500mほどの急登。先発のバスに乗っていた登山者たちにこの辺りで追いついてきた。ほとんど休み無し。朝の寒さはどこへやら。水飲みまくりだ。

  木々が低くなり、森林限界へ。視界が開けると、目指す甲斐駒と摩利支天の岩峰が見えてくる。振り返ると鳳凰三山、仙丈ヶ岳から白峰三山まで見える。山に来るといつものことだが、標高とともにテンションが上がる。東斜面に沸く雲よりも早いペースで一気に駒津峰2750mへ。スタートから2時間。コースタイムより40分くらい早めの到着。眼下に雲。晴れ渡る空。南アルプスが一望だ。

  さてここから先がきつくなる。親に連れられて来た小学校低学年のお子様は残念ながらここまで。荷物が重い人はここに置いて行く。足元がゴツゴツした岩場になり、すぐに緑の消えた岩の山肌のみになる。直登と巻き道の分岐。巻き道のはるか先には団体さんの渋滞。直登は岩の壁。でも先を行く姿が二人。迷ったけど最短距離で決まり。真上へ続く直登ルートだ。難しそうなのは見えてるとおり。

  「上級者以外立入禁止」を明示して欲しい感じ。完全な岩登り。かなり苦戦。腕に擦傷、時計に傷、脚に筋肉痛。おじさんおばさんにルートを教えながら、かつ手伝いながらの岩場。巻き道をはるか下に見ての急登。でもその分、絶景が楽しめる。何とか登ってきたおじさん、69歳だって言うから驚きだ。直登しただけあってかなりの時間短縮になったとさ。10時5分、スタートから3時間で甲斐駒、2967m登頂。我慢しきれない衝動、「南アルプス、YA〜HA〜!」っと、山口大ワンゲル部、注目しないでよっ。恥ずかしいから。

  頂上で360度の展望を楽しみながらのお昼。雲海に浮かぶ富士山、南アルプスの全て、遠く北・中央アルプス。このひとときがたまらなく幸せ。ここから飛び出したい衝動に駆られるのは私だけか?!いつかアルプス上空を縦断なんてやってみたいもんだ。

  下りは岩場をともに登ってきた50歳くらいのおじさんと巻き道を行く。摩利支天にも寄り道。寄り道にしてはコースが不明だったり、どこから登るか迷ったり。しかも下って登ってとなかなかハード。おじさんとはここでさらば。スタート時に一緒だった同い年くらいの4人組ともすれ違う。「もう登ってきたの?」ええ、直登ですから。「あれ?女の子は?」、「後ろでバテてるはず」ってさ。最初からバテてたもんなあ。登頂できたのか気になる。

  登りと下りのコースが違うと下りも楽しめる。さっき登った直登コースは、下から見上げるとありえない角度。よく登ったなあ。それもじきに上がってきた雲に覆われて、見えなくなる。登山道からの景色も真っ白。往路で見えた駒津峰からの甲斐駒も雲に隠れてしまう。こうなってくると後はもう帰るのみ。戻りますか、北沢峠へ。双児山を経由して、展望の無い木々の中へ。のんびり下ってもいいんだけど、特にやることもなく。飽きて走り出す。トレイルランの練習だよ。帰りのバスの時間は13時か15時。なのに、北沢峠へ着いたのは14時ちょっと前。なんか中途半端な時間。まあ無事下山だ。

  バス待ち。峠の長衛荘の中や周りをうろついて、時間まで山奥を楽しむ。「人が集まればバス出すんだけどね」とのこと。20分もすればそこそこの人数が集まり、14時20分頃、北沢峠にさらば。登頂の達成感と下山の疲労感、どっちが上?南アルプスに別れを告げる1時間のドライブ。ありえない場所を歩く猛者二人。「乗れませんか?」って、残念ながらバスは満員。あの二人はどこに登ったんだ?

  寝て起きた頃に林道終点。清流の透明な流れ見えなくなる場所が駐車場の仙流荘前。頂上で一緒だった69歳のおじいさんもここの駐車場だった。「おつかれさま」と「帰りもお気をつけて」。またいつか来るかも?さあね。でもどこかの山には登るから。帰りの温泉を楽しみに、南アルプス林道に、そして、遠く甲斐駒にさらば。週末の山旅、やっぱ夏山っていいよなあ。

おしまい

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