全日本学生パラグライダー選手権

〜2002年 夏休み旅行記 宮崎編〜


  早稲田ハングにパラが誕生して4年目の夏。早稲田パラはついに全国デビューを果たした。早稲田ハング・パラグライダークラブからは初の学選(全日本学生PG選手権)出場である。学選の舞台は九州、宮崎県鏡山エリア。大学生活最後の夏休み。全国大会という大舞台に立つことが、なんとなく空を飛んでいた私にとっての目標。ぎりぎりでニューマシンへの乗り換えを間に合わせ、いざ勝負の地へ。そう、ここで勝てば学生チャンピオン。気合いが入らないわけがない。全国から集まった学生フライヤーたちの熱きお話をごらんあれ。


8月25日

  24日の夜、東京駅22:15分発でアイオロバン、木下さんと共に西を目指す。東名で沼津まで、そこからは1号で名古屋へ。バイパスの工事やら迂回やらで道に迷いながらも、早朝6時ごろにツカサ家に着いた。他の足尾勢は合宿続きで九州を目指しており、後からバンで行くのはこの3人だけだった。マンションの13階から朝もやの名古屋市街を見下ろし、朝食をご馳走になり、7:40、ツカサ家を出発。ここから3人でノンストップ長距離ドライブが始まった。私は早速ダウン。関西出身の2人に任せ、都市部を抜け、11:17に岡山の福石PA、13:47には広島の宮島SAと爆走。筑波を出発してからメーターが一回転。すでに1000km走っていた。中国地方は山とたまに瀬戸内海を見ながら、車も少なく、快適に飛ばす。3人での運転交替が二順したくらいの15:39、ついに本州を脱出。関門海峡をバンで通ることになろうとは・・・。九州に入ってすぐの小倉東で高速をおりた。ここで朗報。先行するバン2台も、まだ高速をおりてから40分くらいしか経っていないとのこと。追いつけるか。

  宇佐駅付近(どこだかわからん)でついに先行するバン2台を発見。2車線道路で並びにかかる。ワカバ、中バンと感動の再会。3人で頑張った甲斐あって、予想よりも早く合流。みんなを見つけて、疲れも眠気も吹っ飛んだ。別府を過ぎて、四国から船で来るテラと合流の予定。20:50、気がつけば山の中で、2台のバンともはぐれてしまった。ケータイも圏外。テラを探してローカル線の駅をうろつくも見つからず。スーパーのおじさんからの情報で「もう随分前にでっかい荷物を持ったにいちゃんが・・・」。それだ。先に温泉に向かったらしい。うちらも行かねば。すでにバン2台は先に着いていた。22時までやっていたので助かった。こんな山奥で夜に来るなんて、うちらくらいだと思うが。入った温泉は大分県直川村の鉱泉センター直川。長旅の疲れを癒した。

8月26日

  深夜に着いた延岡市のファミレスで遅い夕食。今夜の泊まり場所も探さねば。正確な目的地もわからず、着いたのは道の駅北浦。海のすぐ側でキャンプ場併設らしい。ここでバン3台とテント2張り。早朝に片付ければ問題ないとの判断。聞けば途中、高速のSAでもテントを張ったとか。私の寝床はアイオロバン。ちょうど2時。おやすみ。

  大会は明日から。でも、すでにみんなエリアへ到着。そこで見たものは遥か遠くのLD(ランディング)と海岸へと続く山、それに透き通った海。おまけに、ぶっ飛びでは届かないという。すごい。ここが学生NO.1を決める戦いの場になるのか。飛んでみてその感動はさらに大きくなり、その景色に心を奪われた。海の上のフライト。しかも透き通る青い海。LDまで結構ぎりぎりだったこととか、荒れていて片翼がつぶれまくったことなんて気にならなかった。ただその景色に心奪われていた。大会を想定してカメラを持って飛んでいた。が、パイロンもセクターも関係ない。この空から見た景色を写真に収めたい。私が手にしたのはデジカメ。その瞬間、次の日から始まる勝負なんて、どうでもよくなった。

  2本飛んだ後は弘大バンの脱輪回収して終わり。実行委員の江口君とりんちゃんにあいさつ。荷物を送る予定だった渡辺さんのところには帰りの航空券を送っていたが、それもすでにハクさんから受け取った。よく覚えてくれていたと驚き。飛んだ後の海岸では、地元フライヤーの方が潜ってサザエやら亀の手やらをいっぱい採ってくれた。その場で焼いて食べたら美味すぎ。3本目に上がったので海には入れなかったが、入った奴らはくらげに刺されまくっていた。いたそーだ。夕食はうどん屋。肉うどん大盛りのはずが肉うどんてんぷら入りが出てきた。石毛のわけわからん注文に店員が間違えたか。おかげでちょっと得した気分。がらっぱ湯に入って、今日は公民館。外は大雨で蒸し暑い。明日はどうなるんだか。

8月27日

  早朝の山への道、牧場で放し飼いの牛が道路を横切っていてびっくり。目が覚めた。TO(テイクオフ)で受付。ゼッケンNO.14だって。開会式には北川町長も登場。雲に覆われたTOで昨年の準優勝の人が選手宣誓。大会が始まった。まずはサブLD見学ツアー。そこら中にあるから見て回るのも時間がかかる。しかも「ホントにここにおろすの?」ってとこばかり。何としてもメインLDに戻らねば。海、川、どこも水のあるところはきれいなとこばかり。田舎だけど、本当にきれいな自然がある場所だなあと、ちょっと感動。下は強い日差しがあってもTOは雲の中。タスクボードの前で、いよいよ本日のタスク発表。「本日は・・・キャンセル」だそうで。まあ仕方ない。

  ここは飛べずとも、近くに飛べる場所があるらしい。山下さんや鏡山のイントラの方々もいっしょに、団体で向かった先は米の山ってところ。海沿いのリッジのエリアで高度差は120mくらい。LDは一周500mはあるグランド。低いながらも海の景色は最高。普通に飛んだら、様子を見る間もなくLDしてしまったが、リッジで飛べば、いい景色を見放題。狭い空域をみんなで飛んで、なかなか楽しめた。LDしたらグラハン大会になってたし。広いLDでもいくよ木に引っかかる。グライダーだけだけど、ソテツ?やしの木?南国ちっくな木にからまってた。とげの先に毒がある木だとか言われて回収に手間取っていた。それとは別の木で、おいしい実がなっている木があった。正体は不明。かなり甘くて気に入った。

  鏡山はみんなが去っていい加減してから天気が回復。最後まで残ったハングのみっちーは一人いい思いをしたそうだ。夕食は“みそかつのどん鳥丼”で、チキン南蛮(←宮崎が発祥の地らしい)うまし。ドリンクメニューのオーダーミスでトラブルもEPOの力で押し切る。さすが。風呂へ向かう頃に突然の大雨。ハングの保護といきなりの暴風雨で、風呂に入る前からシャワーを浴びたような感じ。本日もがらっぱ湯。みんなでのお風呂は楽しい。明日は晴れるといいな。

8月28日

  TOで受付をするも、雨が降ったり止んだり。雲は低く、風向きもわるし。タスクにならないとのことで今日もキャンセル。みんな飛びたいから午前中は様子見てみたんだけどねえ。キャンセルになったら、フリー。何をしようかと、考えるまでもなく、最初に向かった先はコインランドリーと弁当屋。砂丘合宿からツアーを続けている人は洗濯が大変そうだ。パンツ落としたの誰だ?女の子?!

  午後は宿泊場所にしているホタルの館の隣の体育館で遊んだ。みんな裸足でドッジボールやバドミントン。東工組はバドミントンが下手だった。全試合に負け続けたムギと私で体育館使用料を払いました。常にチーム戦だったからなのに・・・。暴れてかいた汗を流しに、目の前の北川へ。冷たいし、素足で痛いし。流れも激しいゾーンがあったり、静かな場所があったり。みんなではしゃぎまくった。マベは石を掘って温泉作り。石毛とアキはモリで魚採り。他の人は上流へ移動して夕食探し?をしていた。とにかくキレイな川で、魚や生き物がいっぱい。石毛は鮎をモリでゲット。私はカマツカ(コイ科の小魚)を捕まえた。ヤマトヌマエビがうじゃうじゃいてびっくりしたが、実はこの辺りが、ヤマトヌマエビの原産地らしい。こんなに生き物だらけだと捕まえるのがバカらしくなってくる。東京なら見るのも珍しい生き物も、ここだと当たり前のようにいて、本当に自然に恵まれたキレイな場所なんだなあと、しみじみ感じた。

  夜は宿で山下さんの座談会。それまでに風呂飯。本日もがらっぱ湯。で、時間がないのでほっかほか亭で買って、バンで移動しながら飯。三夜連続で雨。峠を越えるたびに天気がころころ変わった。そんなに高い山じゃないのにねえ。座談会は盛況におわり、夜は飲みやらおしゃべりやら、思い思いに楽しんだ。今回、宿にしているホタルの館は北川町立の施設で、空調が効いていて快適。公民館とはえらい違いだ。ここで気になるのは天気。予報によれば、台風が接近中。近くの島に遊びに行った人たちが、海が荒れて帰れなくなりそうだったとか。台風は勢力を保ったまま移動中。予想進路は宮崎を直撃か。明日は雨でなくとも、強風でキャンセルでしょう。そんな雰囲気が漂っている宿の大広間でした。

8月29日

  7時から公式掲示板には「待機」の文字。そのうち「本日のタスクキャンセル」に。みんな爆睡。スタッフを除いては。そこへ山下さんが登場。明日の予報も考慮した結果、大会のキャンセルが予備日を待たずに決定した。早く台風から逃げろと、異例の閉会式もなしという事態になってしまった。残念だが仕方ない。早稲田ハング・パラからの初参加。初めての全国大会、学選は一日も競技をすることなく幕を閉じた。大会キャンセルとはいえ、早稲田パラのパイオニアとして歴史に残る一歩であることには変わりない。よねえ?閉会式はないけど、記念に写真はみんなで撮った。山口大対山形大の山大対決が盛り上がっていた。にらめっこなんだけど・・・。結果はドロー。日大が日体大とかいなくてよかったと言っていた。

  レセプションも中止になったので、もっとみんなと話したかっただけに残念。そういえば集まったメンバーは2年前のフェスタとそんなに顔ぶれが変わらなかったような気がする。院生?留年?研究生?それってありなのね。9月中ごろに、この振りかえもどきを足尾でやるって。参加するかどうかはまたのんびり考えます。みんながバンで去って行く中、中国学連合宿組に延岡駅まで送ってもらうことにした。航空券の都合で明日の便が飛べることを祈って宮崎に残るしかなかったので。で、お昼に元祖チキン南蛮の店“なおちゃん”へ。京大の4人と入れ替わりで、山口大2人と計9人でチキン南蛮をいただく。マジうまい。食べに来た甲斐があった。

  延岡駅まで送ってくれたタロー、アキ、テラ、マベ、石毛、ミサト、ありがとう。電車の出発まで待っててくれて、発車のときの見送られように思わず窓から顔を出して手を振ってしまった。これから宮崎へ。台風に近寄る方向に向かっているのだが、いったいどうなることやら。延岡から2,3駅、天候の影響ですれ違いの電車が遅れているとか。単線だから待ちがあるのは当然だが、正面衝突はないよな。通過駅にととろ?!土々呂駅だって。変わった駅名を発見してなんかうれしい。

  宮崎駅に着いたのは17時過ぎ。今夜の寝床はどうしようかと考えたが、せっかくの宮崎。レンタカーでうろつくことにした。ヴィッツでサンメッセ日南のモアイを目指すも、着く頃には豪雨。景色もいいはずだが、すでに夜。不思議なモアイを見てみたかったのだが、公園も閉園。むだ足だった。台風の接近で、人も車もいない海岸線の国道。寂しさのあまり、すれ違ったバスにさえも親近感を感じてしまう。結局、宮崎市内へ戻り、コンビニの駐車場に停めて、おやすみ。明日の飛行機が飛べることを祈るのみ。

8月30日

  寝たか寝ないかわからんうちに朝。何とか飛んでいるという情報を聞きつつ、レンタカーで空港に様子見に。どの飛行機も見合わせとなっていたが、結局JASが全便欠航。まあ一日3本しかないですが。激しく降ったり止んだりの雨に翻弄されながらも、街中をうろつく。17:35発のANA最終便を予約したが、果たしてどうだか。完璧な計画だったはずなのに、台風は想定してなかったぞ。1時間くらい前にならないと欠航かどうかがわからないらしい。もしダメだったら今日の宿はどうするんだ?空港に泊まりか?宮崎はジャイアンツのキャンプ地。空港には大々的にジャイアンツの広告があったっけ。待ちに待った甲斐あって、なんとか定刻どおりにテイクオフ。1時間半後くらいには羽田に着くはずだが、バンで宮崎から帰った奴らのほうが早く東京に戻ってきたらしい。全ては台風と格安航空券のせいだな。さて、帰ったらそのまま弥彦行き。わかってはいたがハードだ。夜出のバンの中ではぐったりしていた。


  いつもは山で飛んでいるせいもあってか、海の上や海を見ながらのフライトには感動した。鏡山さいこー。宮崎もさいこー。台風が来なければもっとさいこー。パラ文化の違いのようなものをここでは感じた。エリアフィーが無料であること。それぞれが自分で管理することによって成り立っているということ。自然を本当に楽しんでいるように見えた。砂浜のLDに降りたあとはそのまま海へ直行。潜ってサザエやウニを獲ったり、きれいな魚を見て楽しんだり。都会人には貴重すぎる体験ができる。こういうのっていいなあ。

  誰かに勝つために飛ぶんじゃない。普通の人には見られない、日常では決して見ることが出来ない、そんな景色を見るために、私は飛んだのかもしれない。決戦の舞台に立って感じた高揚感は、飛んで味わった感動にあっさりとかき消された。鏡山でのフライトは何の記録でもないが、私の記憶には強く刻まれている。残念なことに、台風の影響により、鏡山で飛べたのは一日のみ。学選も前代未聞の閉会式なしという途中キャンセルで不成立に終わった。もし大会が飛べていたら、どうしていただろうか。競技ではなく、他の人が見ていない最高の景色を求めて、みんなと違うフライトをしたのかな・・・。記録もいいけれど、記憶に残るフライトを求めて、これからも飛び続けたい。なりゆきとはいえ、パラに出会えてよかった。今なら、素直にそう言える・・・ような気がする。全国の学生フライヤーの未来に幸あれ。

おしまい

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