古都迷走、近畿最高峰に一人旅

〜2003年 旅の軌跡 奥吉野編1・2〜


8月30日

  世間では夏休みが終わろうとしている8月の終わり。金夜出で近畿地方の最高峰、大峰山を目指して、車を走らせていた。三重県内を迷走して日付が変わる頃、初の奈良県へ。天理から道なりに南下、するはずだったが、道が途切れ、遺跡だとか寺社だとか文化財系の古都に迷い込む。深夜の古都は静まり返り、はるか昔の幻想を抱かせる。はずもなく、ただただ道に迷いまくった。山間部へ入ってからはもっと静か。夜の山道も慣れてはいるが眠い。山奥の道の駅へ逃げ込んで車中泊。3時を回っていた。

  田舎の朝は早い。6時には人々が活動し始めた。駐車場にはいつの間にやらテントが。いつか自分もやったのを思い出し、多分学生だろうと勝手に思ってしまう。ここから先は本当に山奥になる。道もどうなっていることやら。ダムを兼ねた湖は青く、川の水は透き通っていてきれいだ。天の川なんていう村を抜けるともう集落はなく、名ばかりの国道をひたすら山奥へと向かって走った。道幅はすれ違えないくらいにせまく、舗装もいまいち。落石注意の看板ばかりが目立つ。ごろつく岩を抜け、何とか橋を渡った先は道が途切れ、木々が生い茂っている。どこかで道を間違えたか、国道の終点に来てしまったらしい。車1台がやっと通り抜けた落岩の隙間を今度はバックで抜ける。無理・・・。脱出するためにもがんばったが、数ヶ所擦った。窓からは木の枝が侵入するし、朝からまいった。

  なんとか着いた登山口にはすでに先客の車が10台ほど停まっている。行者還(ぎょうしゃがえり)トンネル脇から大峰山系へ突入。単独の面白みを演出するために真っ黒くろすけとともに登る。道の駅でテントを張っていた若者たちもここに来た。私が行き止まりにハマっている間に追いつかれたか。登りはじめからきつい傾斜。しかも土で滑りやすい。黄色い幹の木がいっぱいあったが、キハダってやつか?同じく黄色いヘビも発見。体長50cmくらいで、登山道を這っていた。稜線まで一気に行き、ブナの原生林を通過。休憩している単独登山者を発見。荷物も多くてつらそうに見えたが、何と昨夜は目的の小屋までたどり着けずに野宿だって。しかも予定の水場に水がなく、ぎりぎりでここまで来たなどとぬかす。ダウンされては困るので、500mlほど分けてあげる。自分が飲むよりも先に人にあげることになろうとは・・・。あと1時間くらいで山小屋があるから、と励まして私は先を行く。自分の体力を考えなくちゃね。

  道らしい道が無くなってふと上を見る。登山者発見。ずいぶんいる場所が違う。よく見る。あ、向こうが登山道っぽい。斜面をよじ登って強引に登山道に復帰。厳しい道だと思いきや、道ではなかったか。しかし、私だけではないらしい。私の後を付いてきた人も道を間違えたし、上から下りてきた人もありえない場所から出てきた。何なんだ、このゾーンは。と、思っていたら、今度は木製の階段。整備されてるんだか、されてないんだか。山小屋に着いたが、営業してないのか、人がいないのか、ひっそりとしている。弥山の頂上を踏んでから、近畿地方の最高地点、八経ヶ岳を目指す。

オオヤマレンゲ

  天然記念物のオオヤマレンゲの保護ということで、金網に囲まれたゾーンを通過。通行止めかと思ってあせった。頂上まではすぐ。先客も数人はいた。が、下に停まっていた車の数ほどの人はいない。みんなどこへ行った?晴れてはいるものの、景色はガスっていて、かなりいまいち。ちょっと不満。お昼を食べながら、景色が良くなるのを待った。ヘビが現れたくらいで、人も来ない。とりあえずこの瞬間、近畿地方の誰よりも高いところにいた。雲が入り始めて、景色どころか天気もやばそう。またの機会を期待して、来た道を戻ることにする。道の駅でテントを張っていた若者たちと弥山付近ですれ違った。のりのりで登っていてなかなか楽しそう。一人で真っ黒くろすけの写真撮りながら登るのも悪くはないが、やっぱみんなでわいわい登るほうがいいなあ。

  下りで、またしても道を間違えた。登りで間違えた辺りで、慎重に行ったのに外した。水のない沢が登山道っぽくなっていて、危うく下りていってしまうところだった。疑いながら進んだし、一人で万全を期するためにも、登りなおす。登りで死にかけのおっさんを見たら、慎重にもなるだろ・・・。よく見れば、登山道も分からなくはない。にしても何なんだ、このゾーンは?まあ道がはっきりすればどうってことはない。下界で待つ温泉を楽しみに一気に下山した。

  山奥から抜け出したわけではないが、いちおう集落までは戻った感じ。豊かな自然と歴史に彩られた天川村。洞川(どろかわ)温泉センターで登山の疲れを癒し、湧き水で有名だというこの町を車でスルー。信仰の山らしい登山道の入口付近まで行って引き返してきた。帰り道のはずが、県道崩落のため通行止め。来た道を戻るしかないようだ。紀伊半島の最深部はまだまだ奥が深い。さらなる秘境を求めてまた来なければ。山から抜け出す頃には、心地よいを通り越して疲れきっていた。さすがに一人は大変みたい・・・。

9月6日

  一週間もすると、疲れなど忘れてしまう。むしろあの大自然に魅せられた感じ。再び金夜出で向かったのは人里離れた山奥の大台ケ原。近畿最高峰、大峰山とともに、日本百名山の一つである。先週で古都の迷走には懲りたが、それでも迷うことに変わりはない。山の中に入ってからはもっと迷った気がする。舗装はされているものの、本当にこの道は通れるのかと疑問を持つような場所ばかり。大台ケ原が近くなっていることだけは確信して、携帯の電波も届かない山奥のパーキングらしき場所で燃え尽きる。やっぱり3時を回っていた。

  山の朝は早い。早朝から登ろうとする人たちはもう来るのだろう。こんな山奥なのに、6時前から車の通る音がしていた。そんなに多くはないが。で、私も動き出す。とりあえずは登山口まで行って考えよう。走り出して驚いた。何に?って山々の朝の景色に。何度も車を停めては、その山深き荘厳な景色に見入る。これを見られるのは山奥に泊まった人だけだな。

  昨夜の道とは一転。崩落地こそあるものの、2車線道路になって走りやすくなった。どうやら数年前に改修されバスも通るようになったらしい。登山口の駐車場に車は20台くらい。すでに出発した人々も結構いるっぽい。大台ケ原の主峰、日出ヶ岳までは40分ほど。まさに日の出が見られるような感じ。山々の向こうには海。そこから太陽が姿を現す。はずだったが、ガスっていて太陽ははっきりと見えず。眩しいほどの明るさはあったけど。まだ草木が朝露に濡れているうちに登頂。意外に近い海と重なりあう山々。山の朝って、なんかいいね。

  大台ケ原に来て雨に降られなければ、よほど精進の良い人と言える。それくらいここは降水量が多い地域だ。雨男の疑惑がかけられていた私だが、この晴れで疑惑は晴れたか。朝もやが消えるにつれていい天気になってきた。標高差も少なく、道も歩きやすい。独特の植生と景色を楽しみながらのハイキング。何かのプロモで使えそうな景色だ。しかし、何か物足りない。そう思っていたら、コースから外れる分岐あり。大台随一の絶景と言われる大蛇ぐらへの道だ。看板に「これより先、装備のない人は通行禁止」とある。でも、この先が絶景との話。慎重に進む。岩場になり、一気に切れ落ちる。視界が開けたそこはまさに絶景。言葉が出ない。鎖と鉄柵がわずかにあるが、気を抜いたら風にバランスを崩し、滑落しそう。眼下に広がる絶壁と、はるか紀伊半島の最深部にそびえる山々。標高こそないが、アルプス級の大迫力。さっきまでの物足りなさが吹っ飛んだ。何時間でも見ていて飽きないかも。

  奥吉野の魅力はこの大自然か。周遊するように大台ケ原をまわる。他に人がいなくなったいいタイミングで鹿に遭遇。距離は離れているが2頭、こちらに聞き耳を立てている。木々の奥になるので、近づきようがないが、遠目でも見られてよかった。驚かさないように立ち去る。木漏れ日の中、緑のシャワーを浴びて、心地よい余韻に浸る。気がつけば、駐車場に戻っていた。帰りは大台ケ原からそのまま南下して熊野へと、山の中をドライブ。大自然の中に見る雄大な景色、荘厳な雰囲気、味わい難い感動。これを知ればこそ、さらに山深き地への憧れに思いを馳せる。次なる感動はどこで味わう?

おしまい

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