第1回 Mt.富士ヒルクライム

〜高きゴールの果て〜

LOVE・WING うっちゃん

9月26日

  7時スタート。早い人だと1時間も前から並び始める。並ぶというよりも場所取り?落ち着かないので、スタート地点に来ちゃった、みたいな感じか?みんな和気あいあい(に見えた)。緊張よりも初めて登る富士スバルラインに心躍るといったところか。もちろんオレも楽しみ。不安はかなりあるが、初めてのレースを楽しみにしている気持ちの方が強い。実力も未知数なら、自転車もクライムも未知の世界。大会自体も第1回ってことで、手探りな部分が多い。スタートのときを心待ちにしているのは主催者側も同じこと。これから始まる新たなレースの歴史。その始まりのときを自転車とともに誰もが待っている。 

  ところ狭しと並ぶ自転車の数々。色とりどりのユニホームに身を包んだ人々が、ある人はじっと祈るように、ある人はチームメイトと話しながら。自転車を支えながらスタートを待つ光景は独特だ。「お前いきなり○%☆▲□かよ」とか「この@#◆$◎が心配なんだよね」などなど、意味不明の言葉が飛び交う。パーツの名称だったり、自転車用語だったりするのだろうが、さっぱりわからん。みんなの自転車を観察しつつ、ギアなど真似てみたり。一番軽いやつにしておく。高校生、女の子、ど素人風の人(オレか?)など、スターティンググリッドについた選手たちは様々。メット、サングラス、グローブを着けて、格好はみんなプロ選手。かっこい〜。

  会場のテンションが最高潮に達し、7時、トップクラスがスタート。一気に盛り上がる。スタートラインまで徐々に進む。そしてカウントダウン、3,2,1、GO!7時10分、一般選手29歳以下&女子の部、スタート。ペダルに靴をはめる音やギアを変える音がうるさいほどに響き、それに負けない喚声がメイン会場をあとにする選手たちに降り注がれる。スバルライン入口までの1.7kmはパレード走行。周りの人や沿道の応援を見つつ、ペダルを踏みしめる。会話しながら走る人や、応援に手を振って応える選手も多数。スバルライン手前のコーナーが迫る。ここを曲がるといよいよ始まるレース。みんな周りを見回す。サングラス越しに交わる視線に無言でうなづく。どこの誰かも知らない者同士だが、これから目指す場所だけは同じ。その高きゴールへの完走を誓って、お互いの健闘を祈って、そして全ての自転車マンの無事を願って。自然と交わすハイタッチ。よっしゃ、行ってやるよ。静かに漲る闘志。燃えてきたぜ。先導する車が道路脇に外れる。レース開始の料金所、ゲートをくぐる。ついに始まった。

  パレード走行の終了とともに一気にばらける隊列。お互いを気にして走っていたほどの大人数が縦長に伸びる。気持ちほどには体はついていかず。無理せずにギアを軽いほうから2番目にする。やばいときにもう一つ下げて逃げられるように、などと思って。多くの人は一番軽いギアで走っているみたい。前日のスカイライン試走でびびったクライムの傾斜だったが、そのせいか、スバルラインの斜度はそれほどきつくは感じず。実際にも比較的緩やか。とは言っても、いきなりこれを味わったら、ありえないと感じたかもしれないが・・・。慣れない自転車で呼吸のリズムが整わない。さらには足の回転もいまいちしっくりこない。練習を積んで、挑むのが大会であれば、ど素人のオレにとってはきつくて当たり前。ここは自転車マンとしてではなく、ランナーとして勝負する。走る呼吸に合わせて足を回転させ、徐々にペースを整えていく。

  曇り空のスタートも標高が上がるとともに霧雨になってきた。寒くて足が動かなくなるのが心配。5kmの通過は順調、時間的にも予定どおり。制限時間ぎりぎりの完走を想定したタイムだから、余裕があって当たり前かも。どこで限界に達するかが全く見当つかないから安心はできないが・・・。レースの流れが落ち着いてきた頃になって、時間差スタートの後続グループが迫りくる。横を一気に走り抜ける。速過ぎ。クライマーの実力であれば、あれくらいの速さは当たり前なのか?大人しく前後の人に合わせて走っていたが、好奇心は抑えられず。ある程度抜かれた頃に、ちょっと速めの選手に付け直してペースアップ。どうなるかわからんが、どうせいい加減なペースなんだから、やるだけやってみる。引っ張られるように位置を上げていく。

  ど素人さが一番表れたのはペースかもしれない。抜いた人に抜かれたり、また抜き返したりの繰り返し。おそらく相手はみんなイーブンペースで、オレだけが勝手に前後してるんだろうなあ。でも登りで稼げない以上は、少しでも傾斜の無い場所でとばさないとどうしようもないから。行けることで行って、きつい所では無理しない。これはオレの山登りのペース。あまり常識的でないことは、みんながやっていないことからも明らかだが、少なくともオレの体には染み付いている。いつの間にか雨が止み、流れる汗がサングラスに滴る。晴れて先が見えていたら、愕然としたかもしれないが、曇りで視界が悪いことが幸いした。気がつけば第1関門、10.6km通過。制限時間1時間以上前。タイム的には余裕。体力的にはすでに半分以上消費。レースはまだ15km弱残っている。標高はすでに500m以上登った。おそるべし、ヒルクライム・・・。

  ここまでですでに自転車を降りた人を何人も見ている。中にはパンクなどのトラブルに見舞われた人も。関門では給水をしている。オレは・・・ボトルも付けてない。そんな自転車は他に1台も見ていない。マラソンでは給水のボトルを持って走るなんてありえないから、てっきり自転車もそうかと・・・。アホだね。幸い曇天のおかげで水分の消費は少ない。ここでも給水する余裕はない。多分止まったら最後。もう走れなくなる。第2関門、最終ゲートまでは行かねば。水分補給をしないなんてありえないかもしれないが、体がまだ大丈夫だと言っている。きついのは呼吸系。標高が上がるにつれて酸素も薄くなってきてる?!

  クライムの流れとはこういうものなのか、のんびりと前後が入れ替わる。スピードがありながらも、スピード感がないのはお互いに走っているせいか。よろけて落ちていく選手を交わし、いいペースで上がってくる選手に道をゆずる。あんな細い脚のどこにそんな力が?と思わせる女の子や、いい歳なのにがんばるおじさん。くっ、負けられない。オレも自分のベストを尽くすのみ。ギアを一番軽いのに落とし、わずかな力を使って、見えない先頭を追走する。どんなに離れていても追走するのは先頭、そんなイメージ。15km通過。1キロ5分って、走ってるのと変わらないか、もしくはそれ以下のペース。でもこれでほぼ限界。第2関門まであと3.4km。カメラマンの前を通るときは何となく意識してみたり。あまりボロボロの姿は見せられないでしょ。

  上のほうから太鼓の音。スバルラインの9割は沿道の応援がない孤独なレース。力強い太鼓の音が、腹に響き、ちょっとだけ気合いを入れられる。この自転車で走った1回のライドの中ではすでにもう最長。せいぜい10kmくらいしか走ったことなかったから、15kmを越えて、クライムでなくても未知の領域。それでも行けるのはアスリートとしてのポテンシャルの高さか。なんて思って自分に惚れぼれ。そんな妄想をしてしまうような最終の第2関門手前。ほぼ限界。走りながら給水ボトルを渡してくれるスタッフの方々には申し訳ないが、それ振り切るようにして、空きスペースに突っ込む。18.4km地点、標高はついに2000mオーバー。そのまま倒れこみ、大の字。駆け寄るスタッフ。こんな走り方しかできなくてごめんなさい。初レースってことで許してください。この関門の制限時間まで1時間以上の余裕は上出来。「10分ダウンさせて」とボトルを受け取り、ぐったりとする。給水所で自転車から降りる人はいても、倒れている人はいない。全てはゴールに辿り着くため。全身を休ませつつ、ここからのレースを分析する。残り6.6km、最悪、自転車を押して走っても行ける。制限時間内のゴールは見えた。後は前に進むのみ。お前の力でゴールに連れてってくれと、まだ付き合いの浅い愛車に頼む。

  スタッフの声援を背に受け、再びスタート。短時間で信じられないくらいラクになったように感じる体で20−21kmの山岳賞区間を迎える。少しでも見せ場を、との思いも空しく、山岳賞にふさわしい斜度の1km区間に返り討ち。それでもランナーは屈せず。ゴールして下山してくる選手に励まされながら、ラスト3kmへ突入。コーナーを抜けて現れた急坂。自転車を押している人、辛うじて登っている選手、この位置を走る人たちはもうみんな力尽きている。この急坂にキレた。ゴールが見えた以上は、もうどうにでもなれ。「ここが最後の坂だぞ」との声に、「ホントかよ?」と疑いつつも、スパート。他選手を圧倒するスピードで登りきる。そして続くフラットな直線。勢いそのままにここから猛烈な追い上げ。オレにひと時の夢を見させてくれ。全身赤でキメたスタイルどおり、燃えるようなスピリットで、スバルラインとの勝負。前を行く選手が遅く見える。このレース初の重いギアでスピードアップ。そのスピードは自分で言うのは何だか、このレベルでは飛び抜けていた。次々に視界から消えてゆく。“クライマー”ではなく、やはり“スプリンター”。オレの体がそう応えた。下山グループからの喚声とどよめき。今大会、最大の見せ場。ど素人の猛烈なスパートがレースの最後を盛り上げる。3km弱のロング(自転車的にはショート?)スパート。ゴール手前で失速するも、秘技“すぺしゃる”自転車バージョンをかまして、シャウトとともにゴール。思わず出た決めポーズは、レースに満足した証拠か。ゴールゲートの先に、転がる選手と自転車の数々。壮絶なレースを物語る光景だ。

  富士山5合目、標高2305mに登頂。記録2時間15分54秒。総合順位、1498位(ロード男子、完走1616人中)。山岳賞、1640位(男子1936人中)。壮絶なレースの高きゴールの果てには、初めて知る新しい世界が広がっていた。フルマラソン以上にきつかったが、これもまた思い出に残る大会。クライムはもう勘弁、とか思ってるのは今だけ。多分数ヶ月もしたら、またやってみたくなるにちがいない。そんな魅力があるんだから、ぜひまた来るべし。記念すべき第1回大会。これがオレの自転車デビュー戦。ここから、オレのツールへの道が始まった。なんてね。

おしまい

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