第2回 Mt.富士ヒルクライム

〜このゴール、天まで届け〜

LOVE・WING うっちゃん

6月5日

  参加選手3100名以上。ロード男子29歳以下の部、500人弱。最後のスタートを切ったのが7時30分。すでにスタートした選手とすれ違う。そのときスタート地点までまだ500m。最後尾スタート決定だ。「何かトラブルですか?」、トラブルと言えばトラブルだが、今からスタートだよ。7時35分、ゲートを見上げて、一番後ろからスバルラインへと向かう。最後の一人にも温かい声援。かるく手を挙げて、心の中で、行ってきます!

  すぐに隊列の後ろに追いつく。パレード走行の後方はのんびりだ。応援の声に応えつつ、徐々に位置を上げる。高ぶる気持ちを抑えきれない。せっかくのレース、楽しまなきゃ損だ。料金所手前のコーナーで外に振る。沿道の観衆にアピールしてスピードアップ。スバルラインにコースイン。そしてパレード走行の終了はレースのスタート。登りの一本道、天空のゴールへと続く、それぞれのドラマが始まった。

  序盤の登りがきつい。しかも後方は素人ばかり(自分も含めて)でペースがつかみにくい。オーバーペース?いやそんなことはない。タイム的にはむしろ遅め。そこへ後ろからいいペースで一人。「ギア軽めでマイペース、マイペース〜」って、私「もうバテバテっす」、彼「まだ始まったばっかじゃん、ほら行くよ〜」、私「うぃっす〜」と後ろにつくと、見えたゼッケンNO.2。招待選手、橋川健(キナンCCD)さん。そりゃあ余裕なわけだ。私が最後尾かと思ったが、さらに後ろから追ってきたのね。みんなに声かけながらレースを盛り上げる、これも招待選手のパフォーマンス♪うれしい。

  あっさり振り切られ、5km通過。手元の時計のタイムは・・・信じがたい。そんなに遅いか?!遠くにそびえる富士山の姿が壁のようだ。5合目までって言われても、かなり遠く、高く見える。後ろからのレースだと、なかなか見られない選手の姿が見られる。すでに歩き始めている人、パンクの修理に苦労する人、仲良くカップルで走る人。今回が初レースという人も少なくないはず。昨年は私もそうだった。クライムの餌食になったか、それとも調整不足か。トラブルに見舞われない運というものも完走には必要な要素だ。やっと1合目(標高1405m)、面白いのはこれから。

  レースが落ち着き始めたか、私が落ち着き始めたか。ペースが整ってきた感じがする。周りの選手の動きも落ち着いてきた。抜く一方というのは気持ちいいが、それでも決して速くはない。かといってオーバーペースは避けたいし、スピードコントロールが難しい。10km手前で2合目(標高1596m)、いいペースで登ってる。5〜10km間はキロ5分。が、早くも疲労感がある。曇りのときはいいが、太陽が出ると日差しが厳しい。汗の量も多く、水分補給は欠かせない。

スタートゲート&パレード走行最後尾

遠くに見える富士山&今中大介選手

ひたすら登る&曇りの中を疾走

バテバテ&まだまだ続く

  第1関門はスタートから10.5km地点。制限時間は気にするほどのこともない。余裕だ。体力的には厳しいけどね。給水してくれるのは女子高生のサポーター。「がんばって下さ〜い!」ってボトルを渡され、思わず笑顔で「ありがと〜♪」、ドリンクを受け取り、気合いが入る。我ながら単純だ。地元高校の運動部とかかな。ここで休憩する選手も少なくはない。第2関門まではペース落とさずに行くぞ。

  木々が低くなってくる3合目(標高1786m)、道路わきのガードレール越しにいい景色が見える。山麓を見渡す、富士山らしい景色だ。もうこんなに上がってきたのか。それでもまだはるか上の方へと続くスバルライン。3000台以上の自転車が山を駆け登る、そんな景色を飛びながら、空から見てみたい。それにしても自転車は不思議だ。何でこんな普通っぽい人や、細い女の子がこれだけの走りをできるんだ?オレだってこんなにいっぱいいっぱいなのに・・・。ましてや、オレよりはるかにいい走りをするやつらの身体能力が理解できない。

  ある程度まで疲れてくると、とりあえずペースは落ち着く。スピードはあまりよくないが、まあダメダメじゃあない。お互いを風よけに使ったり、引き合ったり。軽く言葉を交わしながらレースを楽しむ。外国人選手もいる。「Hi, how are you ?」、ちょっと間があって「I'm so tired.」。邪魔した?「Good luck !」。笑顔でバテバテながらも「You too!」。先を行く。言った手前、がんばらざるをえなかったが、後でこの外国人には抜き返された。さっきまでボロボロだったくせに・・・。15km通過、ペースは落ちてないぞ。

  「もう降りてくるのかよ?!」、思わず出た言葉に下を向いていた他の選手の顔がいっせいに上がる。そんなに大きな声で言ったかなあ。すでにゴールして降りてくる第一陣、100名ほどが反対車線をすれ違う。「がんばって!」、つきなみだけど、この言葉がいやじゃない。レースを撮るカメラマン発見。「笑って笑って、はい、前向いて〜」って、いいんですか、もろにカメラ目線になっても。カメラの前ではちょっとスピード落とした。いっぱい撮って♪みたいな。

  カーブの先、上の方から太鼓の音が響いている。第2関門が近い。太鼓のリズムに乗ってパワー全開。周りの「えっ?」みたいな反応がうける。そりゃあそうだ。このバテバテの状況で、ゴールでもないのにスパートする奴はいない。呼吸系は問題ない。やばいのは足だ。多分休めば回復する気がする。根拠は無い。が、もうスパートしちゃったから。スタートから17.2km、第2関門まで無駄にごぼう抜き。そして、給水所の裏にコースアウトする。大の字。「大丈夫ですか?!」ってサポーターがボトルを手渡してくれる。ありがとう。でも大丈夫じゃない。燃え尽きる。周りにいる選手達は立ったままのんびり給水、って余裕に見えるぞ?ならもっと行けるんじゃ・・・?!

  数分、足を休める。ストレッチで体をほぐす。そこへかわいい女の子。ゼッケンNO.6001、ゲスト選手のお天気お姉さんだ♪さすがに疲れたか、たっぷり休憩している様子。でも素人の女の子でここまで来たんだから大したものだ。もう完走は間違いない。30分の時間差をやっとここで追いついたわけか。ばっちり目が合う。「がんばって!」、お前ががんばれよって言われそうだが、他に言葉無いし。「ありがとう、あなたもね」って笑顔で返されたら、再びやる気が出てきた。やっぱり単純だ。「ボトルは投げていいから、行って!」、そう言われたら、遠慮なく。給水所も大変だろうに、ホントにすばらしいサポートに感謝する。選手はただその走りで応えるのみ。ゴールまで、力尽きるまでこぎまくれ。

  山岳賞区間、19〜20kmの1km。その計測ポイントのスタートが見えてきた。レース前に意気込んでいたほど、山岳賞を狙うような力はもう残ってない。実際、昨年以上にやばいかも。何でこんなに疲れてるんだ?レース前のドタバタが原因か?間違いなくそうだろ。無駄に30分ほど、スタート直前にクライムをやってしまったからなあ。駐車場から競技場までの道を間違えて、ずいぶん下ってしまった。戻るのに、けっこういいスピードで登ってきたから。じゃないとスタートに間に合わなさそうだったから。ってそれでも間に合わなかったんだけどさ・・・。

  迷ってる暇は無い。体力が残ってなくても、最初に決めた見せ場はここ。行けるとこまで、GO!・・・と、400mで足が重くなる。長いようで短い数分間、足が動かない。ダメだ。話にならない。それでも、一度は落ちたスピードをまた上げなおす。遅いが、この前後の選手の中では速いペースで山岳賞区間をカバーする。そして20kmを通過。カーブで見えた崖側の景色がすでに相当高いところまで来ていることを感じさせる。

  最後の見せ場、ここは下山グループの人もスタッフもいる。あと500m。トンネルを抜けると目に入るゴールゲート。自転車歴10か月、ヒルクライム3回目、大会4度目、そんなオレに待っていたゴールは限界への挑戦。前に見える奴は、かわす!ゴール手前50mでもまだ抜く。そして、「おつかれさま、ゴールは目前です!」と実況の声が聞こえる。声援に感謝、愛車におつかれさま、右拳を軽く突き上げ、空を見上げてゴール。どんな順位だって、誇れる完走。全力は尽くした。これだけ天に近い場所にゴールしたんだ。2週間前に逝ったおじいちゃんにもオレの姿がはっきりと見えただろ。

  5合目に転がる自転車と人の群れ。燃え尽きた疲労感と心地よい達成感、そして完走の感動に酔いしれる。五合目立て札の前で、記念写真。愛車“来夢”ちゃんを抱きかかえてキス。ゴール後の笑顔に、見てるみんなも軽い笑い。ここにもいた外国人選手に「Nice ride !」、彼「Good job !」、私「How do you feel Mt. Fuji ?!」、清々しい笑顔で「Beautiful !」。これがJapanのMt.富士だよ。「Ya, see you next year ! bye.」、異国のレースにも出てみたいなあ。

  制限時間が迫る中、湧き上がるゴール。さっきのお天気お姉さんだ。山田玲奈さんね。早速インタビューされてる。「おつかれさまでした!」、カメラから解放されてから、「一緒に撮ってくれません?」って、「いいですよ〜。さっきはどうも」、いえいえこちらこそ。かわいい笑顔についにやけてしまう。真っ赤なジャージが印象に(ホントかどうかは別として)残っていたそうだ。うれしい。

  完走に満足する自分がいる。完走だけでは満足できない自分がいる。これもまた自転車レースの魅力。今日のレースを振り返るかのような下山。余韻に浸る。選手たちの列にはスタッフから温かいおつかれさまの声。「ありがとうございました!」、給水所のサポーターにはハイタッチ。そして、スバルライン料金所まで1時間くらいかけて下りてくる。沿道に並ぶ観衆の「お帰りなさ〜い」。気分は凱旋のパレード。5合目を制した選手たちのドラマのエンディング。流れる音楽は、自転車を愛す人々の歓声か。

来年へ続く・・・

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