初飛び体験記

〜ターゲットを踏んでやれ〜

早稲田パラ うっちゃん

  2000年11月23日。ついにその日はやって来た。天気予報とは違って穏やかな初飛び日和。注文しておいた機体、アトラスも届いており、初飛びから自分の機体で飛べそうだ。初めて来たパラのテイクオフで、ハーネスの調整、座り方、降り方等を教わって順番待ち。でも、空いていたので、その場で機体を広げ始める。ハーネスを付け、ラインチェックも念入りにやって、準備オーケー。隣からは慣れたフライヤーが数人飛び出していく。ホントは早稲田パラ初のフライヤーを目指していたのだが、遠藤に先を越され、ちょっと残念だった。まあ最初くらいは譲ってやるかと思い直しており、気分はすでに早稲田パラのエースを目指すべくのりのりだった。

  「よっしゃ、いつでも来い」。ちょっとは緊張していたような気もする。動作に入る前に、空に向かって「早稲田パラ、うっちゃん、行きまーす!」と、叫ぶつもりだった。が、一発で立ち上がらなかったらカッコわるいので、ちょっと弱気に心の中でだけ叫んでおいた。気分は観衆の注目を浴びて、走り幅跳びの助走に入るときの心境。でも、このときは注目を浴びるほど人がいなかったが。ゆっくりと立ち上げていくと、手に強いテンションを感じる。前に進まない。「ヤバイ?立ち上げ失敗か?」と一瞬思ったが、ちらっと機体を見るとバランス良く立ち上がりそうだ。思いきって大きく体を前傾させる。1,2,3歩。フワッとからだが浮いた。今までで一番のテイクオフ。自分的にはほぼパーフェクトだった。そのままV字に開けた斜面から空へ。「うりゃー!」と自然に声が出てしまう。目の前には壮大なパノラマが広がった。

  インストラクターから無線が入っているが、風の音でよく聞こえない。音量は大きめにしておいたはずだが。何とか聞き取れたのが「ハーネスに座って」とかなんとか。手をブレークコードから離してハーネスに座る。ついでに無線の音量も最大にする。手の位置や方向を指示されながら、ランディングへと向かう。自分の位置を確認しようと上下左右を見まくっていたら「きょろきょろしない」と無線が入る。「むむっ。いったいどこから私のことを見ている?もしやめちゃくちゃ目が良いのでは?」とか思ったりした。「だって周りがよく見えた方が落ち着くし・・・」などとブツブツ独り言。一瞬、世界が自分のものになったと錯覚したが、さらに上空を数機のパラが飛んでいたので、酔いしれたのも一瞬だった。

  かなり安定しているのは初めての私でもわかった。ときどき風が下から吹き上げる。「これが上昇気流の一種?」とか考えているうちに高度処理に入る。高さには余裕があった。午前中に機体のチェックを行った講習場の真上も通過する。ちょっとだけ予習しておいた体の動きでターンに入る。自分でも「いい感じに曲がれてるんじゃない?」などと思っていた。無線から「うまい」が連呼される。「初めてにしては」ということだろうが、それでも言われればうれしい。そのまま誘導に従って、ターゲットを目指す。直線飛行、目の前にはターゲットが迫る。「ど真ん中!」と思ったが、ちょっと?けっこう?かなり?オーバーした。

  「まっいいか、問題なくランディングできたから。それよりみんなは?」。感動の初飛びとそこに駆け寄り、抱き合って祝福する仲間たち。っていう風景を想像していたのに・・・。駆けつけてくれたのは杉山さんひとり。でもランディングにいた人たちに「初飛びおめでとう」と声をかけられ、うれしかった。飛んだ時間がわるかったってことでしょうがない。インストラクターに言われた「どこかでやってた?」の言葉がちょびっとうれしかった。ターゲットは2本目以降でまた狙うことにしよう。

  はるか遠くに見えた山々。いつかあの向こうまで飛んでゆく日が来るはず。今はまだその日のための第一歩を踏み出したに過ぎない。新たな空の旅はまだ始まったばかり。気まぐれで始めたパラグライダーだったが、私の舞台は陸上の「跳ぶ」から、空中の「飛ぶ」に変わった。私と愛機「舞姫」は、これから空を爆走してゆくだろう。そして後に、人々にこう語らせたい。「すべての伝説はこの日から始まった」と。

おしまい

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