卒業生に捧ぐ走り

〜2002年 青梅マラソン〜

早大陸上競技同好会 うっちゃん

  2月17日、晴れ。スノボーの疲れ癒えぬからだに、脅威の30キロ、青梅マラソンが襲いかかった。かつて駅伝を走ったロードを含む奥多摩街道の折り返しコース。スターターに長嶋茂雄を迎え、1万人を越える市民ランナーが集まった。今大会、テーマは「卒業生に捧ぐ、愛と感動の走り」。社会人になって、もう思うように走る時間がとれないかもしれない人たちが、思い残すことなく去れるように、去る人のために残る人が応えましょう。ランナーゆえにその走りで。みたいな。

  スタート地点は長蛇の列。スターターの長嶋前監督の前を過ぎるのに2分かかった。みんな手を振って通り過ぎる。もちろん私も。レース序盤は人ごみの中を走る。流れにのってとりあえずは様子を見る。30キロ。ハーフよりは長く、フルよりは短い。抑えて行きたいが、完走が当たり前である以上は、記録を意識したい。気持ち速めで、行けるところまで。

  街をあげての大イベントらしく、市街地のみでなく、多少離れたところでも沿道に応援が多い。ブラスバンドや太鼓など所々でなかなかに盛り上げる応援があった。レースの方は淡々と進む。10キロの通過まで予定どおりのペースで刻む。が、スタートラインを通過するまでの2分が縮まらない。依然として周りには人が多い。3分の1を終えて、体力的にはいい感じ。ただ、わずかに左膝に違和感を感じる。13キロ過ぎで折り返してきた先頭集団とすれ違う。やはり一流ランナーは速い。チームメイトも比較的前の方にいるはず。前から100番以内には付けていた。さすが。声をかけると、気が付いた。孤独なレースの中、お互いにちょっとうれしい。

  このコース、アップダウンが激しい。上りが多かった前半15キロを過ぎていいペース。後半の下りでリズムに乗れば行ける。と、思っていた。ここまで気づかない振りをしていたが、17キロ過ぎで膝に痛みを感じ始めた。ペースをわずかに落とし、様子を見る。が、集中力がここで切れた。いくら走っても前に人はいるし、次々に後ろからも抜いていくし、どいつもこいつも速くてむかつく。久々レースでキレた。

  後ろから追ってきた一人に合わせて、ペースをあげる。脚が動くうちにゴールへ駆け込め。無駄に勝負に出た。明らかに周りよりは速い。膝が痛い気もするが、気持ちいい。21キロを通過。ハーフなら自己ベストというタイム。このまま一気に押し切る・・・はずだったんだけどね。

  24キロ地点、ずっと同じペースで走っていた女子選手に離されたとたんに膝が悲鳴をあげた。ペースが落ちるどころか走るのも辛くなる。膝を抱えてこの場でうずくまりたい。今までもレース中に脚が痛くなることはあったが、本当に走れなくなるブレーキを味わったのは、今回が初めて。トップランナーがリタイアする状況ってのがよくわかった。歩くのと変わらないスピードまで落ちる。1キロ進むのに8分かかった。歩くかどうか、止まるかどうか。記録を意識したのはいつのことやら。限界ぎりぎり。

  今回のレース、なんで参加したんだっけ?何もこんな時期に走んなくたっていいのに。あ〜、そういえば卒業生に付き合って出たんだっけ。しかもノリで勝負までさせられてたんだよな。卒業か。もうそんな季節なんだ。早いなあ。と、まあこんなことを考えていた。で、最後に自問する。お前の卒業生に対するおもいってこんなものなのか?テーマの「卒業生に捧ぐ、愛と感動の走り」はどうした?

  「誰にもゆずれない」とか「これが最後」とか、人それぞれのレースに対する思いがある。本当に苦しいとき、最後は何に頼るのか。仲間に支えられ、チームに支えられ、声援に支えられる。伝統と期待のかかったユニホームで走ることは、時に重荷になるが、人に夢を見させ、自分に夢を見させる。人の走りは、その人の思いを伝えることもできる。卒業してもずっと走り続けて下さい。走っている限り、きっとどこかで、また会えるはずだから。ゴールして、そう伝えたい。

  久々にキレたレース。決していい記録が出たわけでも、いい走りができたわけでもない。ボロボロになって完走しただけ。でも、キレて走ったわすかな時間は、最高に気持ちよかった。また次の、最高に気持ちいい瞬間を求めて、そんな思いをしたくて、どこかで走るのかな。

  どんなに無様でも、どんなにつらくても止まれない。止まったら、自分が自分で無くなる気がしたから。決してこれが最後なんかじゃない。これからも、まだレースは続いていく。誰もがむかえるゴール地点になんとか辿り着いた。ここを駆け抜けたときから、次のレースが始まる。卒業も同じ。大学生活が終わっても、社会人生活がまた始まるだけ。環境が変わったって、仕事に追われたって、関係ない。きっとみんな、これからも走り続けるはず。だって、みんなランナーなんだから。卒業を思ってちょっとしんみりする青梅からの帰り道でした。

おしまい

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