かっとび伊吹2004

早稲田ハング うっちゃん

  日本百名山の一つ、伊吹山。家から車で1時間程の場所にあり、パラグライダーのエリアとして一度だけ飛びに来たことがある。普通に登るのではちょっと物足りないが、大会で登頂するのはなかなか面白いかも。そんなノリで、初の山岳レース「かっとび伊吹」にエントリーした。要するに伊吹山の駆け登り大会。ランナーよりは山登りに慣れいているし、高度差による気圧変化はいつものこと(飛んでるからね)。適性から見るとかなりいいんじゃない?と、静かに燃えていた。

  8月29日、台風の影響で天気は微妙ながらも、麓の会場、薬草の里に着く頃には太陽も見え隠れ。目指す伊吹山は5合目より上は雲の中。そこに突っ込んで行けと。茨城や東京から参加のランナー(クライマーか?)もいる。同じ会社からも数名が参加。ウェアもロードとは違い、様々な格好が見られる。日よけ、暑さ寒さ、給水対策などなど山岳レースだといろいろあるわけだ。私はというと自転車用ウェアにキャップ、サングラス、ヒップバックにデジカメと水を持ってのレース。景色は期待できないが、足が止まったら写真を撮って楽しむつもり。会場ではスタート直前までBGM、DJのトークが大会を盛り上げる。これもまた陸上の大会では味わえない雰囲気。全長10km、標高差1157mを一気に駆け登るレース。スタートの時が迫ってくる。平地なら余裕の制限時間2時間30分。クライムだとどうなんだ?「かっとべ、かっとべ!」を合言葉(?)に3,2,1、GO!

  前から5列目くらいのスタート。マイペースを刻むが、周りが速い。いやこのペースは速過ぎでしょ、とか思ってる間にも次々と前に行かれる。みんな平地が勝負と読んでのことか、それとも普通にあのペースか?決して遅くはないので、登山道に入るまでは今のままで。このレース、抜くより落ちてくる人をかわすという展開になるとの読み。登山道に入ってから仕掛けることにして、山に入るまでは抑えていく。先頭から続く細長い集団の後方で、登山口の鳥居を駆け抜けた。

  1合目へと続く林道はパラグライダー伊吹山エリアLDまでの道。傾斜もただの坂道という程度。とはいえ、走るにはなかなかきつい。曲がりくねった道は先頭集団の姿を隠し、急カーブは自分の上や下(前や後ろと言った方が正しいか?)を走る人を見せる。落ち着いてきたペースも呼吸が休まることはない。これが駆け登りの厳しさか。徐々にばらけてくる集団。ペースを維持して登山道へ突入。一気にきつくなる登りと高くなる標高。クロスカントリーは慣れてないが、登山なら分がある。3合目を通過する頃にはすでに先頭争いは絞られてきたか。スキー場を通る広めの道で平地並みの走り。そのまま5合目以降の険しい登山道へ。頂上は雲の中。岩がごろつく斜面は走りにくいし、抜きにくい。バテた人からこぼれていく。8合目の表示を合図に勝負。一気に先頭を取り、そのまま見えない頂上まで息の続く限り、駆け登る。振り切れるか、差されるか。明らかに次元の違う走りに抜かれるも、9合目を過ぎてからのスパートは、見えないゴールに誰もがタイミングを逃す。が、それが幸いし、力の差以上に逃げ切りに成功。予想タイムを上回る1時間10分で表彰台へ。

  と、妄想に浸っていたのはスタートから鳥居をくぐるまで。緩やかな林道の傾斜でさえ厳しい。正直、ありえない。抑えていったつもりのペースでもオーバー気味。というより登り続けるというのが想像以上に呼吸と脚に効く。せめて林道だけでも、との思いも空しく、1合目を前にして想定タイムを大幅に下回る。それどころか、ここからの登山道に入って数十メートルで脚が止まる。こんなにあっさり走れなくなるとは・・・。適性がある、との浅はかな考えが崩れ落ちた。長距離も走れるスプリンターというのはあくまでも平地での話。登山での体力は歩いて登ってのこと。クライムにはそれなりのトレーニングをした者でないと無理ということか。ましてやスプリンターには・・・。

  弱気になったつもりはないが、ショックは大きい。振り返れば、登山道に入ってからは、走っている人が激減。登山大会状態。平らになるわずかな場所のみ走るが、2合目を過ぎて、平地でも走れなくなる。3合目までの部の先頭集団に追いつかれたのは2.5合目を過ぎたくらい。10分差でスタートしたのに、5km足らずで抜かれた。3合目のゴールを横目に、傾斜がよりきつくなる岩がごろつく斜面に突入。低木ばかりになり、前(上?)を行く人々の列とジグザグの登山道が見えてくる。それでも頂上は雲の中。5合目を過ぎて、レース全体のペースが落ち、こぼれ始める人が次々に出てくる。早々に走れなくなった分だけ、わずかに足が回復している。6合目くらいから何とか走り出す。狭い道ながらも、コーナーごとに一人一人かわして行く。が、山岳レースの洗礼をここでも浴びる。抜くに抜けない登山道では、遅い選手にペースを乱され、体力・気力ともに消耗する。抜きにくく、抜かれにくい分、先行した方がいいわけだ。前後を走る人はすでにぼろぼろ。人のことを言える程ではないが、少なくとも同じくらいの位置にいる人の中では、一番体力が残っていそうな感じ。足を引きずる人やふらつく人など多々あり。おそるべし、登山競走・・・。

  8合目以降はゴールして降りてくる人たちに応援されながらのレース。登った後に自力で降りるのかと思うと力が抜ける。が、そんなことも言ってられない。妄想したタイムはもう忘れて、現実的な目標を見据える。とにかく・・・完走、登頂。それしかない。タイムは2時間切りで。残りの距離もゴールも見えないレースで、9合目を通過。10分の1の標高差を走りきるのみ。雲に覆われた山頂でDJがトークする。その声が聞こえてからが長かったが、斜面を登りきっていきなり現れたゴールゲート。雲の中に突っ込んでいくレースの最後は、両手を挙げて標高1377mのゴールへ。手元の時計で1時間57分台。ぎりぎりで2時間切りか。

  燃え尽きた頂上は百名山25個目の登頂。景色は全く見えず、夏とは思えない冷たい雨。山小屋で休む大会参加者以外には観光客もいない。下山は今度は未だ登り続ける人の応援をしながら。時間内完走がかかっているだけに、それなりにみんな必死。最後のほうはぼろぼろで山岳レースの壮絶さを思い知った。3合目からはゴンドラとバスで会場まで送迎付き。結果速報が張り出され、すでに上位は順位が確定。女子の部の優勝はなんと同じ会社の人。元実業団ランナーの力はさすがと言ったところか。初出場で優勝をかっさらった。私はというと、全体で407位(600人くらい中かな)。記録は1時間57分47秒。完走。それでも十分に意義のある大会だった。トレイルランナーへの道遠し、ってとこですか。

おしまい

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