花びらのように舞う雪の中で

〜第20回 大山登山マラソン〜

LOVE・WING うっちゃん

  早朝の小田急線。人もまばらな新宿を出て、しばらくすると多摩川を越える。丹沢山系とその向こうに白い富士山。遠くまでよく見える。いい天気だ。電車に揺られながら音楽を聴いて過ごす。新宿から1時間。今日の大会の舞台、伊勢原まで来た。

  会場は地元の小学校。受付で「どちらからですか?」と。「と・・・三重です」。「遠くからご苦労さまです」と渡されたのは「はるばるお越しで賞」。なんだか、うれしい。北は北海道、南は九州からの参加。けっこう遠くからも来ている。開会式では20回連続出場の人が10数人紹介された。20年前はまだ走ってもいなかった。

  約1700人のエントリー。アップはここの校庭内のみ。狭いところを1000人以上の人がぐるぐると回っている。誰よりも長くアップに時間をかける。レース序盤、体が温まるまでの時間は待てない。最初から全開で行くつもりだ。今日はエンジ色のシャツ。これを着たら、言い訳は無し。エンジ色の力に期待する。すでに40分前と20分前に40代以上と女子の部がスタートしている。20,30代の部は最後。駅前のスタート地点まで商店街を移動する。距離9km、標高差650mに挑む、数百人のランナーに声援が降り注ぐ。サングラスを掛けて準備OK。スタート前のこの高揚感がたまらない。

  晴天の伊勢原にスタートの号砲が響き、レースが始まった。スタートラインの通過まで10秒。集団がゆっくりと最初のコーナーにかかる。ここを曲がるとゴールまで登りの一本道。標高1200m以上の大山が壁のようにそびえる。遠く雲のかかった大山が視界に入ったランナーはどれくらいいるのだろうか。その中腹がゴールとはいえ、やる気が失せそうな高さだ。大集団の中から抜け出す。速い。学生ランナーで目に付いたのは山梨、東海、法政、日大。社会人では自衛隊何とか空挺団が気になる。「ロード部分7kmが勝負だから。それ以上は無理。だってスプリンターだからね」。多分登山道に入ったら抜けない。トレイルランの面白さ。序盤からハイペースだ。もっとも学生ランナーにとってはこれくらい当たり前のスピードか。

  1kmの通過は3分半。先頭から縦長の列が延びる。斜度はまだ気にならない。「早稲田がんばれ〜!」って応援が気持ちいい。淡々と進むレース。走るリズムが落ち着かないのは、微妙な登り坂のせいか。2km、3kmと市街地の中を走り抜ける。キロ3分後半で刻む。車線がなくなり、道幅が狭くなる。沿道の声援に手を挙げて応える。「余裕は無いけど、何かうれしくて」つい応えてしまう。エリートランナーは真剣なレース中に手を挙げて応えるなんてできないだろうなあ。市民大会ならではの楽しみって言ったら言い過ぎか。

  4km、ペースが落ちてきた。キロ4分。前方集団との差が開く。汗の量が多い。「きつい」のは呼吸。斜度も明らかに分かるようになってきた。ここまでのハイペースも効いている。それでも老人ホームや幼稚園からの声援に手を挙げて応える。「エンジ色の力」で、落ちてくるスピードを無理矢理上げ直す。明らかに斜度が増したコースで、開いた前方との差が詰まる。5km、何とかキロ4分半でカバーした。が、反動も早かった。いきなり来た吐き気。5km通過してすぐ、側溝に吐いた。「カッコわるっ」てマジやばいかも。

  ロード7kmで200m、登山道2kmで450m以上駆け上がるコース。どうやらここまで走ってきたのは旧参道だったらしい。6km手前で新道に合流。斜度が一気に増した。「ロードしか魅せ場は無い」。すでに歩く人が現われ始めた中で、スパートをかける。20分前にスタートした女子選手を次々に捉えていく。吐いてラクにはなってないはずだが、ユニホーム効果とでも言うべきか、力以上の走りだ。それでも吐いたロスは大きい。この1km10分かかった。登山道に消えた先頭など見えるはずもなく、学生ランナーもどこへやら。地元高校生が同じ位置を走っている。

  歩き出す高校生ランナーを抜き際に一言。「まだまだ行けるぞ!」と気合いを入れる。それは自分に対しても、かな。ロードが終わる7km地点の通過が39分台。ここに来て一度抜かれたランナーを次々に抜き返している。が、ペースは上がらず。そのまま終盤の2kmへ。1600段あるという石段区間に突入した。歩き出す姿が目立つ。土産物屋が並ぶ参道を駆け抜け、観光客の声援の中、整備された石段を駆け上がる。が、押し切れたのもここまで。酸欠。脚が動かなくなる。「なんてレースだよ」って思わず本音。

  体がやばい。給水所でエンジ色を応援する声。「無理」とか言いつつも、登山道を走る脚はまだ辛うじて動いている。8kmの通過は51分。「言い訳はあとで考えよっと」。何で?「だって勝つかもしれないから」ってまだまだ強気。根拠は無い。キロ9分で走れば1時間切り。何とか行けるか。平地なら余裕だが、山では別。

  70過ぎたおじいちゃん、仲間に肩を借りる女の子、足元がふらつく人たち。かわしながら「ラスト〜!」って。声出さなきゃ呼吸も苦しい。ゴールはまだか。多分、みんな見えないゴールに、必死に向かっている。ここで限界。脚が吊った。「両足とも?!」と思わず止まる。レース中に脚が吊ったのは、陸上人生の中で初めてのこと。このレースの過酷さの表れか。「走れねー」奴らの列が見える限り続く。登山道の石段を這い上がりながら後続が目に入る。前も後もランナーだらけだ。

  地面に降る白い粒。最初は花粉でも舞っているのかと思った。60分経過。まだゴールは見えず。山道の1kmは長い。次々に振り出す白い粒。これが雪だと気がつくのに少し時間がかかった。相当気温も下がっていた。これもまたトレイルランの演出か。ぼろぼろになってもエンジ色への声援がありがたい。整備された境内へと続く石段。最後は再び走り出す。こんな順位でも堂々とゴール。花びらのように舞う雪の中でエンジ色のシャツへキス。「早稲田LOVEのポーズ」なんてね♪見てる人は意外にいるもので、観衆からの拍手がうれしい。

  記録、1時間8分00秒。男子29歳以下142位。平凡な記録だ。でも、見てる人がちょっとでも「面白かった」って思ってくれたり、一緒に走ったランナーがちょっとでも「楽しいレースだった」って思ってくれたら、それだけでも「ちょっとは満足のできるレースだったかな」。こんなの走ってしまうから、スプリンターなんて言ってられない。男女それぞれのトップ、山梨学院大に入学予定のケニア人留学生二人に挟まれて、記念写真。私の後輩たちとともに大学駅伝を盛り上げてくれ☆他大学生ランナーを振り切ったのは自衛隊何とか空挺団。1,2フィニッシュはお見事。雪が降りしきる標高700mの大山下社。この雪がやんだら、春はもうすぐ。今も日本のどこかで走っている仲間たちに、桜満開の季節が訪れますように。

  こんな感じの大会でした。さて次はどこで何を走ろうかな。ハーフ?100m?トレイルラン?幅跳び?何でもいいから、面白そうなとこに一緒に行こーぜ♪

おしまい

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