10年目のフルマラソン

〜第19回 かすみがうらマラソン〜

LOVE・WING うっちゃん

  いつの間にかマラソンでも記録を意識するようになっていた。07年の東京で33分、08年の東京で32分。ネットタイムで見てもあと30秒ちょっと、サブスリー30に届いてない。09年の東京は落選だったので、代わりにかすみがうら。どうしても30分を切っておきたくて。記録を狙って走る、5度目のフルマラソンだ。後半のフラットなコースと折り返しの無いレイアウト、あとは馴染みのある茨城県ってことで霞ヶ浦まで来た。かずえ、みゆき、ありさも一緒。みさとさんに、えみ&やっちゃんも走っていた。

  スタートは1万人以上が並んで、縦長のものすごい人の列。ほとんど歩くようにしてスタートラインの通過まで2分弱。序盤、混んでるうちは無理せず押さえ気味に走る。早くもみさとさん発見。今回は3時間45分切りが目標だとか。負けないようにしなければ。5kmの通過は27分台。引っかかってるとはいえ遅いか?スタートまでの2分を差し引けば25分。わるくないし、まだまだ先は長い。

  10マイルの部とコースが分かれるくらいから、少しは空いてまともに走れるようになってきた。これで十分。向かい風もけっこうあるようなので、無理せず集団の中で体力温存。10km通過、この5kmは24分。応援に応えながら淡々と距離を稼ぐ。

  15kmの通過で23分台。アップダウンが多少はあるもののうまく流れに乗ってる気がする。体は軽いし、ハーフの通過次第ではいけるかも。おそらく折り返して湖畔に出ると追い風になるはず。後半のバテてきたところを風に助けられれば、いい記録が狙える。

  コースレイアウトによれば18kmくらいで上りは最後、あとは下りきって後半はフラットのはず。細かいアップダウンとカーブの多い道と人の多さで走りやすいとは言えないが、市民マラソンのこの辺なんてそんなもん。むしろ風よけになるいいペースの集団があればラッキーくらいに思っておこう。長い下り坂があり、下った直後の180度ターン。2車線道路から車線のない狭い生活道路に入った。このまま湖畔に出るらしい。20kmの通過も23分台、しかも走る向きが変わって思ったとおりの追い風。これを利用しない手は無い。

  ペースアップしたのか、周りが落ち始めたのか、とにかく抜きまくる展開になった。いつも突っ込んでひたすら粘るパターンばかりなので珍しい展開だ。湖畔に出ると思われた道は民家の間をすり抜け、田園風景の中を走り、湖沿いを走れるわけじゃなかったのか。レンコンの収穫作業を横目に、気持ちいいくらいに足がよく動く。25kmで22分台に突入。ひたすらペースが上がり続けてる。でもここは追い風の効果。このまま22,3分台で行ければ・・・30分切りなんて言わずに、狙える限りの記録を。ペースを再計算、20分切りかあわよくば15分切りを、なんて思い上がる、初マラソンから10年目。

  霞ヶ浦マラソンの名物とは聞いていたけれど、民家の間を抜けるコースのせいか、今日はみんなマラソン応援。施設エイドが次々に現れ、声援も多い。こんなコースだと走っていても飽きない。しかも今日はなんだかいい集中力。距離が過ぎていくのが早い。30kmでまだ22分台。追い風にうまく助けられているとはいえ、ここまで見事に走れるとは自分でも驚きだ。速い人は気持ちいいんだろうなあ。ときどきいる盲人ランナーを抜きながら声をかける。見えないのにこの距離を走るなんて信じられない精神力だ。改めて思う、今日は何がなんでもサブスリー30。30kmの壁、ここからが勝負どころ。

  周りにそんなにランナーがいなくなり、けっこうバラけるような位置を走っていることを実感。湖畔に出れずに孤独な戦いを強いられる中で、もし「早稲田、頑張れ〜」なんて声援があったら・・・そう思うとともに、もうこれからは早稲田の名に頼ることなく、LOVE・WINGの一ランナーとして頑張らねば、と心に誓う。今までの全てを出す、これまでの総決算。長かったこの5km、それでも24分台前半で35kmを通過。行ってしまえ。

  少し押さえて様子を見る、とか、事前に立てた目標を達成するために押さえる、とか。それもあり。目標達成のためなら間違ってはいない。でも、この判断も間違いじゃない。今までやってきたとおり、行かないで後悔するなら行って後悔するべし。サブスリー30なんて、もう今の私には過去の目標だ。今日、この場で狙うべきはさらに上の記録。東京マラソンが当選でもしないかぎりは、もうしばらくは走ることはない。ここで出すベストが人生のベストかもしれない。そう思って刻む1km1kmの重み。そういえば、昔走った河口湖でもラスト7kmからがきつかったなあ。

  そして突然そのときはやってきた。38km過ぎ、我慢してたとはいえ、いきなりずっしりとした重さに潰され、あっさりと立ち止まる。実際には足を止めるまでに葛藤があったかもしれないけど、覚えてるかぎりだとけっこうあっさり立ち止まって、また走りだした。ひざ痛。とにかくひざが前に出ない。少し走っては、歩いての繰り返し。ゴールタイムを再計算しながらのスローダウン。さっきまで抜きまくった人に、抜き返されるまさかの展開。

  とにかく少しでも早くゴールへ。最低でもサブスリー30、当初の目標必達のために、今やれる全てのことを考える。出る結論は一つしかないと知りながら。最後まで全力で走れ。たとえこれで足が壊れても。良いか悪いかは別として、その覚悟と切り替えの早さ、加えて10年の時間が培ったランナーとしての本能。もう後ろは見ない、前進あるのみ。前を行く者はたとえ世界チャンピオンでも抜きにかかる気持ち。40km地点で1分めいいっぱい時間をかけてストレッチ。動かない足で走り続けるより、ここで回復させたほうがタイムは早くなるとの判断。自分の体はよく知っている。

  ラスト2.195km、だだっ広い田園地帯を霞ヶ浦から筑波山へと吹き抜ける強烈な横風。さっきまではこれに助けられていた。最後まで少しでも背中を押してくれ。風にも祈る気持ちで遠く筑波山を見ながら、キロ6分かからなければサブスリー30達成という微妙なところで走り続ける。後方から来るはずのえみはどうした?かずえ、みゆき、ありさ、みさとさんは?終盤になってやっとみんなのことが気になりだした。ラスト1kmの表示と沿道の声に手を上げて応えながら、今日を一緒に走ったランナーたちとゴールへと向かう。その足はもう止まることはない。これが10年目のフルマラソン、これが10年の月日が生み出した元スプリンターのフルマラソン。ペースアップではなく、スパート。スピードという一点においてこの状況で付いてこられる奴なんかいない。サブスリー30を達成する、自己ベストのゴール。走り抜けたゴールゲートに、これまで走ってきた人生に、これほど感謝の気持ちがこみ上げてきたことは無い。ありがとう、そして、おめでとう。自らへ、自らの足へ、かける声。

  序盤の引っかかりと終盤のひざ痛がなければ・・・ と、まだ伸びしろを期待できる結果。ハーフ過ぎるまでは人が多すぎて思うように走れず。後半はひたすら抜くばかりだったものの、ひざが終盤で悲鳴をあげ、38kmと40kmで完全に止まってしまった。走れなくなることなんてそうそう無いのに・・・。でも完全に止まっても回復して、また走りだせるのは、自転車乗りならではの回復力だろうか。なんにしても、シーズン最後のフルマラソンでベストが出せてよかった。攻めた結果の失速なので、仕方ない。グロスタイムで、堂々のサブスリー30だ。

  さて、自分のゴール後はそうそうのんびりもしてられない。まだゴールしてないチームメイトがいるんで。高校生のミス日本からドリンクを受け取り、再びコースへと戻る。みんなが無事にゴールへと向かっていることを祈りながら、走っているランナーを応援しながら、コースを逆にたどる。最初にありさ、次にみゆき、そのすぐ後にみさとさん。明暗を分けることになったようだが、それでもみんな全力を尽くした終盤でいい顔をしていた。走ってるとこは見れなかったが、えみは何とか4時間を切っていた。やっちゃんも5時間ちょっとで完走。40km地点まで戻って見えてきたかずえ。きつそうだが、上々の出来だ。ミニボトルを持って走った効果はでかかったらしい。純粋な疲労だけで済んだとか。応援で息を吹き返したか、再び走りだし、そのままゴールへと消えていった。そんな晴天の霞ヶ浦、遠くに見える筑波山上空は、とても快適そうな青空が広がっていた。

<記録>
タイム:3時間29分09秒 27:44 - 24:00 - 23:46 - 23:28 - 22:57 - 22:59 - 24:14 - 27:12 - 12:49 ベスト
(ネットタイム:3時間27分23秒、ハーフ通過:1時間44分10秒)
順位:1065位/12556人 (フル30〜39歳男子:326位/3411人)

おしまい

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