高きゴールの果て、富士ヒルクライム

〜2004年 旅の軌跡 富士山編3〜


9月25日

  いよいよ明日に迫った自転車、大会デビュー戦。Mt.富士ヒルクライムに出るべく、自転車を車の上に載せ、富士山目指してしゅっぱ〜つ!と、ノリノリで出てきたのが今朝の話。静岡はどん曇り。昼過ぎに着いた富士山麓。さて、まずやるべきはクライムの試走。SPDペダルなるもので未経験の登り坂。自転車と体の調子を確かめるべく、試走に選んだのは富士山スカイライン。ここで5合目まで行ければ、明日の感覚も掴めるはず。さっきウサギが飛び出してきたから、ちょっとは周りを気にしながら、誰もいない富士山スカイラインへ進入、し損なう。勢いつけすぎで曲がれず。オーバースピードって何やってんだか。自転車がいまいち馴染んでない証拠だ。気を取り直して突入。全長約13kmの道のり、クライムとはどんなものなんだ?!・・・?!きつい・・・。明日のことを考えて全力ではないとはいえ、わずか3kmで失速。4kmでギブアップ。自転車を降りてしまった。しかも雨まで降り出す。顔が青ざめた。やばい、明日の大会、見せ場作るどころじゃないぞ?!登りきれないかも、ていうか話にならないかも・・・。SPDペダルとロード用自転車、それに陸上で鍛えた肉体をもってすれば、そこそこいけると勝手に思っていただけに、このショックはデカイ。言葉が出ない。下ってくる自転車が数台。彼らも明日の大会参加者か?明るくあいさつする。しかし、心の中は暗く、焦りまくり。何とかしなくては・・・。

  せめて登りきれば、何かの自信にはつながるはず。乗ったり降りたりの繰り返しでひたすら5合目を目指す。雨が冷たい。いったい何のために?そんな疑問を感じつつも、無心にスカイラインのゴールを目指す。2時間かけて登りきった5合目。こんなに無力感に打ちひしがれるゴールがあっただろうか。夕方の雲海を見下ろして、もう明日だ、やばい、とあたふたする。苦労して登ってきた道もあっという間に下ってしまう。この下りの気持ち良さはサイコー。軽い試走のつもりがとんでもない結果になったな・・・。

  自転車の大会とかこういうものなのか。続々と富士山麓に集まりつつある自転車マンたち。自転車を積んだ車が走っていれば、それはもう明日の大会参加者。軽くあいさつするのが当たり前になっていた。富士スバルライン近辺、どこへ行っても必ず自転車を見かける。大会会場は24時間リレーマラソンでおなじみの富士北麓公園陸上競技場。25日の夜まで受付をしているというから18時過ぎに会場に来た。が、もうすでに真っ暗で何も見えず。受付のテントのみライトが点いていた。静まり返る競技場を踏みしめながら、しばし夏の思い出に浸る。今夜は24時間リレーマラソンのときと同じく、富士見眺望乃元湯、湯〜園へ。温泉に浸かりながら、明日の走り方を考える。見せ場どころの話じゃない。完全に目標は制限時間内完走になってしまった。

  温泉の後は寝る場所。寝床はというと道の駅、鳴沢。9月ということもあり、道の駅はキャンプ場並みにキャンピングカーやらバンやら、車中泊の人々が集まっていた。テントまで・・・。みんな考えることは同じらしい。もちろん自転車を積んだ車も多数。朝が早いから、普通の宿には泊まれないでしょ。寝る前に完走する方法を考える。大会プログラムと睨めっこ。自分のクライムの力は今日で大体わかった。後はこの力をどう使うか。出した結論がこれ。スタートから18kmの関門まで2時間50分。今日のペースで行けば、これは何とかクリアできる。おそらくそこで力は使いきる。自転車には乗れなくても、走る足は残っているはず。ここからゴールまでの7km、普通に走れば50分で余裕、自転車を押しながら走っても、50分あれば十分走りきれる。これで何とか制限時間内完走。乗ってなきゃいけないなんていうルールは無さげ。最悪押して走れば、完走可能。何とかゴールが見えてきた。後は、なるようになれ☆おやすみ。

9月26日

  朝4時起床。眠い。すでに自転車を積んだ車は消えていた。駐車場オープンの4時にはみんな会場入りか。ついにやってきた大会当日。やる気満々だが、不安も満々。何と言っても初めての自転車の大会。未知の世界に一人で乗り込むというのは、それなりにびびる。まだ日の出前だというのに、駐車場に続々と集まる自転車マンたち。ゼッケンをつけたり、マシンの調整を始めたり。タイム測定用のチップ?みたいなのも付けてみたり。説明を読んでも自転車のどの部分のことかさっぱりわからん。外れなきゃOKってことで。マシンと体の調子を確かめつつ、2kmほど離れた会場へ移動。緩やかな登り。もうこれでもきついんだけど・・・。アップのように走っているが、みんなのスピードは結構速い。不安が募るばかり。自分なりのアップでちんたら走っていると、ちらっと声をかけられる。「逆走は危ないですよ」って、逆走?!車に気づくように反対側の歩道を走っているつもりだったが、自転車も車両か。自転車マンの感覚的には自転車もちゃんと車両らしい。道路を堂々と走る自転車の気持ちがわかった。

  競技場の駐車場にはすでに多くの自転車マンが集まっていた。参加選手2700人。これだけの数の自転車が集まることなんてありえない。自分たちのユニホームや、プロチームのユニホームなど格好も自転車も様々。これは見ているだけでも飽きない。会場に着くまではびびってたけど、テンションが上がってきたら、落ち着いてきた。自転車の大会は初めてだから、何を見ても新鮮な気がする。スタンドが付いていない競技用の自転車がそこら中に横たえられている風景も何か変な感じ。多分自転車の世界ではあたりまえなんだろうね。所狭しと壁や木々にも立てかけてある。スポンサーのブースがいくつも出店しており、買物客も賑わっている。まだ朝6時前なんだけどね。さて、これから始まるレース。初の開催にオレだけでなく、参加している選手、サポート、主催者、全員がドキドキしているに違いない。スタートは7時。選手たちが徐々に整列し始めた。

→ → → 第1回 Mt.富士ヒルクライム ← ← ←

↑ 優勝、準優勝&女子優勝

  5合目を楽しむほどの余裕はなく、ぼろぼろの体を休めつつ、下山の準備にかかる。まだゴールに向かって走ってくる選手たちがいる。すれ違いながら、声援を惜しまない。オレ以上にぼろぼろになって走ってくる人、ペダルの壊れた自転車を押しながら歩いてくる人、レースの壮絶さを思わせる後方の状況。完走しただけでも大したもんだなあ、と改めて実感する。25kmの下りはまたきつい。何がきついって、スピードを落としながら、常にブレーキを握りながら、下るんだよ。25kmも下りっぱなしだったことなんてないぞ。ただでさえ自転車慣れしてないのに、これはつらい。でも周りの人とトークをしながらっていうのもなかなかいい。後ろからさわやかに声掛けてきた、いかにもアスリートっぽい感じの人。参加者みんなにあいさつしてるくらいだから、きっとどこかのトップチーム、有名選手なんだと思う。残念ながら自転車界を全く知らないオレには誰と話していたのかもよくわからん。自転車マンにとっては羨ましいことだったのかもしれない。せっかくなんで聞いてみた。「ブレーキかけっぱなしで、焼き切れるとかない?」、他の人は「ブレーキかけ続けるのがつらいんですけど?」、彼曰く「整備されていれば問題ないですよ、他は日頃のトレーニング次第で」とのこと。レース用自転車に乗るの3回目で、クライムどころかレース自体が初めて、なんて言えません・・・。せっかくなんでいろいろ聞かせてもらった。にしても誰だったんだろう?

  1時間近くかけて下ってきたのかな。スバルラインの料金所まで来ると、もう凱旋って感じ。レースをサポートしてくれたアシスタントや応援してくれた人に手を挙げて応える。久々の平地を走行してスタート地点の競技場へ。迎えてくれる人々の「おつかれさま」が心に響く。レースが終わって和やかな雰囲気になった会場。みんな買物やら結果速報やらに群がっている。激闘を終えた自転車たちが競技場内のスタンドに立てかけられ、色鮮やかにタータンのフィールドに映えている。閉会式、ゲストの中野浩一(言わずと知れた競輪選手)と今中大介(数年前の日本NO.1レーサー)が入賞者に表彰状を渡していく。トップは1時間ちょっとで走破したというから信じられない。マジすげえ。シャンパンシャワーが気持ち良さそうだ。閉会式終了後は抽選会。みんなでジャンケンして勝った人にあげるというもの。スポンサーが豪華なだけに、景品も豪華。何でもいいからゲットしたかったが、ジャンケン、全然勝てず、弱っ。目玉は自転車2台、キャノンデールと何とかっていう、共にみんなが喚声をあげるような代物。どれくらいすごいのかが全くわからなかったが、かなり豪華なものであることは確か。金額にして20万くらいとか。学生っぽい女の子と、どっかのおじさんが激しいジャンケンバトルを制していた。獲物を取れずに会場を後にする大人数の自転車マン。それでもその背中には、富士スバルライン完走という満足感と来年のリベンジを誓う静かな闘志が漂っていた。

  大会の終了を待っていてくれたかのように降り出した雨。山中湖温泉、紅富士の湯に浸かって、燃え尽きた体に家に帰るだけのエネルギーを与える。レースはめっちゃきつかったけど、かなり楽しかった。初レースにしてはちょっと激しすぎたが、これもまたネタの一つ。今度は平地でのレースに出てみたい。新しい世界に足を踏み入れたら、そこはまたなんと面白いところか。自転車、見事にハマったよ。今年3度目の富士山に別れを告げる。車の屋根には、スバルラインを走破した愛車“来夢(ライム)”ちゃん。これからもよろしくね。スバルライン、また来るかな・・・。

おしまい

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